SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 8

高温超電導ケーブルのプロトタイプが開発される〜実現に向け一歩前進

 高温超電導体を電力送電用の地中ケーブルに適用する研究は国内外で活発に進められており、これまで東京電力が住友電工、古河電工とそれぞれ個別に共同研究を組織し、ビスマス系銀シース線材を使用して液体窒素中でkAクラスの大電流を通電できるメートルオーダーの長さのフレキシブルな導体を開発している(本誌Vol.2,No.3 および Vol.3,No.1 参照)。 このほど同社らは、この成果をさらに進展させ、約100MVAの送電能力に対応する高温超電導ケーブルのプロトタイプを開発したと発表した(平成7年電気学会全国大会、春季低温工学超電導学会にて報告)。これまでは電流を通電する導体部分の開発に焦点を絞って開発を進めてきたが、今回は、ケーブルシステムに不可欠な要素である電気絶縁、終端部を開発するとともに、超電導ケーブルに特徴的な断熱管や磁気シールド層などを備えたケーブルのプロトタイプとしたのがポイント。
 東京電力・住友電工が開発したのは全長7mのシステムで、電力の送電に必要な3相分の導体をひとまとめにして、現在使用されている地中ケーブル用の管路に収納可能な外径130mmの断熱管に収めたものである。各導体は1500Aの臨界電流を有する。各導体の外側に66kVの送電電圧を絶縁する半合成絶縁紙の層が設けられ、さらにその外部には導体部分に使用したのと同一のビスマス系銀シース線材を使用した磁気シールド層が装備されており、実用の形態にかなり近いものになっている。磁気シールド層は、3相分が両端で短絡されており、各相の導体に流れる電流が発生する磁界を受けて、それを(理想的には)完全に遮蔽するように超電導電流がれる。これにより、自己磁界以外の他相からの磁界の影響による交流損失の増大や断熱管に誘導される渦電流の損失を防ぐ機能を有する。このケーブルに通電用の端末部をとりつけて、3相同時に交流1000Armsの連続通電試験を約7時間実施し、安定な通電が確認された。
 一方、東京電力・古河電工が開発したのは、2000Aの臨界電流を有する導体に、やはり、66kV相当の半合成絶縁紙からなる絶縁層をとりつけたものを単相分のみ外径124mmの断熱管に収納したもの。また、66kVの電圧の課電が可能な実規模の終端接続部を開発し、ケーブルと組み合わせて、66kV、1400Armsの同時課・通電試験に成功(15分間)した。超電導ケーブルの場合、通常の終端接続部で問題になる電界緩和に加えて、冷媒温度と室温の温度差の緩和も問題になる。今回両社は、それぞれ、高分子材料と高真空の組み合わせ、油と断熱性導電材料の組み合わせを特徴とする2種類の終端接続部を開発し、試験に成功した。なお、終端接続部については、中部電力が住友電工と共同で高温超電導ケーブル用のプロトタイプの開発に成功したことを本年3月に発表している。
 今回の成果について、東京電力・電力技術研究所の原築志主管研究員は、「プロトタイプとはいえ、高温超電導線材・導体を用いたコンパクト・大容量ケーブルを開発できたことで、実用化に向けて大きな自信をつけることができた。線材のJc 、交流損失など、まだ課題は残るが、早い時期の実用化をめざして、一層の努力をしていきたい」とコメントしている。

写真1 東京電力・住友電工が開発した高温超電導ケーブルプロトタイプ(66kV/1000A級、3相)

写真2 東京電力・古河電工が開発した高温超電導ケーブルプロトタイプ(66kV/1400A級、3相)

(TN87)


続報 高温超電導ケーブルの開発プロジェクトが日米欧3極に 〜 欧州でも開発が開始される(Vol. 4, No. 5)


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