SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 6

Y系超電導線材復権か〜米国電力研(EPRI)が注目

 これまで電力機器応用に向けた高温超電導線材の開発状況は Bi 系の一人舞台の感があったが、Y系が急速に実用線材に向けてのもう一つの候補として浮かび上がってきた。これまでY系は粒界弱結合の問題があるために、単結晶的なバルク磁石や薄膜には向いているが、多結晶となることの避けられない長尺線材には向かないとする見方が一般的であった。しかし、本誌1995.2月号(Vol.4 No.1)でY系薄膜テープに関してレビューされたように、面内配向性の向上により高Jc 化を目指したフジクラとSuper-GM(超電導発電関連機器・材料技術研究組合)の共同グループと、電力機器への適用可能性を確認するために長尺化を目指した住友電工と東京電力のグループで、それぞれ電力機器応用に向けた研究開発が進められており、着実に性能が上がってきた。さらに去る6月19日よりマウイ島で開催された 1995 ISTEC-MRS 国際超電導ワークショップでフジクラやロスアラモス国立研より、皆を勇気づけるデーターが発表された。その他にもSIEMENSや三菱電機においてもY系薄膜テープ線材の開発を進めていることが紹介されて,「Y系超電導線材復権」といった声が会場から上がっていた。
 フジクラは 連続プロセスで作製した20cm 長の一部(電極長1cm)で6.2 ×105A/cm2を達成し、ロスアラモス国立研 は4cm材をパターニング(幅330μm、長さ4mm)した一部ではあるが、1.3×106A/cm2と高いJcを確認した。しかしながら、フジクラに比較してプロセス上の特徴は無い模様で、フジクラのイオンビームアシスト蒸着による安定化ジルコニア(YSZ)高配向バッファ層形成が基本技術として使われている。 SIEMENSは電力ケーブル用の限流器への適用に向け、フジクラと同じ手法で線材開発を進めているようで2×105A/cm2のJcが得られている。住友電工は、いち速くメートル級の線材・導体開発を行った後、高Jc化に向けたYSZ層の面内配向化を進めているようで、1m長の線材全長で1.5×105 A/cm2(10cm区間で2.6×105A/cm2)のJcが得られている。以上はPVDを用いたせんざい開発であるがその他にも、CVD法により、フジクラと中部電力のグループから5.9×105A/cm2が、三菱電機とSuper-GMのグループから1.×105A/cm2がそれぞれ報告された。Y系超電導線材開発で高Jc 化と長尺化においてそれぞれ先導的な約割を果たしたフジクラと住友電工に追随するように、日米欧の各機関で電力機器応用に向けたY系線材開発が活発になってきた。
 EPRI (Electric Research Institute)のプロジェクトマネージャーPaul Grant氏は「ロスアラモスの研究を今後EPRIとしても積極的に支援してゆかねばならないことになるだろう」と述べ、会議期間中に一歩先んじているフジクラとの接触を図るなど活発な動きを見せた。
 ロスアラモス国立研の成果は日米の一部の一般紙で材料や製法が不詳のまま報道され、高温超電導発見当初のTc、Jc報道に苦労したことを想起した方も多いと思われるが、ロスアラモス国立研の意気込みがうかがえる。その後、去る7月6日にメルパルクおおさかで開催されたSuper-GMの平成6年度研究成果報告会で、フジクラから連続プロセスで作製した15cm材の1cm区間で1.13×106A/cm2 と多結晶金属基板を使用した実用的な線材で始めて105A/cm2を上回るJcを達成できたとの報告があった。開発の責任者であるフジクラ基盤技術研究所超電導研究部の斉藤隆部長は「現在は材料と製法を組み合わせた多種多様な製法により線材化開発を進める段階。本格的な実用に向け、切瑳琢磨しながら開発を進めることで、材料として洗練され、より広範な電力機器応用に対処できる」と述べていた。

(牌と麦酒)


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