SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 5

振動のないパルス管冷凍機〜イワタニプランテック

 超電導技術の進展とともに注目を集めているのが冷凍機技術。これまで冷凍機はいずれもピストンの往復運動を使うために、振動と音とが気になるところであった。パルス管冷凍機はこのメカ部を持たない点で注目されていたが、ついに実用に入ってきたようだ。
 パルス管冷凍機は1963年にギホード・マクマホン・サイクルで有名なシラキュース大学のギホード教授によって発案され、構造の簡単なことで世界の注目を集めたが、効率が悪く、あまり温度が下がらないということで、その後あまり関心がもたれなくなった。
 現在ではギホードの方式はベーシック・パルス管と呼ばれており、詳細についてはイワタニプランテック社の柳井正誼氏が解説している(低温工学 Vol.3, No.5 P7〜P13, 1968年) 。
 1983年ソ連のミクリンがオリフィス・パルス管を提案、ミクリンの予測どおり、1985年に米国NISTのラデバウが 1 段のオリフィス・パルス管で 60Kを達成、いちはやく世界の注目を浴びた。その後、日本大学の松原洋一教授が 3 段のオリフィス・パルス管で 3.6Kを達成、世界中でパルス管冷凍機の研究が活況化した。本年7月17日〜20日まで、米国オハイオ州・コロンバスで開催されるCEC(米国低温工学会議)ではパルス管冷凍機だけで、3 セッション、21件の研究発表がエントリーされている。現在のところ、商品化されているのは世界唯一、日本のイワタニプランテック社の”ピト(商品名)だけである。この商品は電子顕微鏡に開発されたもので、到達温度77K、出力は120K- 5Wという冷凍機である。諸元は表1に示すとおりである。
 システム全系とコールドヘッド部を図1に示すが、イワタニプランテック社が過去20数年間で、数千台の実績を重ねてきた小型冷凍機(商品名クライオミニ)の圧縮機ユニットとロータリー弁をそのまま、採用して信頼性を確保し、低温部に動くものの全く無いシンプルオリフィス・パルス管を取付けるというシステム構成になっている。 この内容は明かに信頼性と、無振動であることを最大の長所とする冷凍機を目指したものである。
 図 2 にこのパルス管冷凍機のコールドエンドに素子を取付けた電子顕微鏡の写真を、SEMで十万倍に拡大したものを示すが、冷凍機の振動の影響が全くないことがあきらかである。
 イワタニプランテックでは同じ圧縮機を用いて50K、出力77K-3Wのものを商品化している。柳井氏の弁によればパルス管冷凍法の原理は解明されたわけではなく、商品化とは別に理論解析と、より温度をさげることを目標に、大阪市立大・物理の児玉隆夫教授、岡山理科大・応用物理の信貴豊一郎教授と共同研究の体制を組んでいるとのことである。到達温度を下げることについては、すでに松原氏が3.6Kを達成されたように、あまり問題はないが、 15000時間(3年間)という高信頼性と高効率を得るにはまだまだ課題が多いとのことである。
また将来への進展を予測するに、図3にオリフィスパルス管の構造を示しているが、低温部に動くものが何もないというものの、パルス管の中には一部ピストンの代わりをするガスがあるわけで、このガスは寒冷発生のための冷媒ガスでないために、この分だけスターリングやG-Mより効率の低いのは宿命的なものである。
 将来パルス管が、他の冷凍機を駆逐するのではなく、振動の無いこと、信頼性の高いことが選択の対象になり、スターリングやG-Mの持つ特徴と横ならびで共存し、低温応用の需要が拡大すれば、冷凍機の住み分けの時代がくることが予想される。  問い合わせ先:イワタニプランテック(株)低温機器事業部 東京(担当:石塚、守屋、赤坂)電話03(3206)9697 滋賀(担当:近藤、越智、足立)電話0775(82)3773

図1 パルス管冷凍機の外観a)コールドヘッドb)全系

図2 SEMによる10万倍の顕微鏡写真

図3 オリフィス・パルスチューブの概略

(懇々知己)


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