SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 4

高温超電導層状結晶構造を用いたジョセフソン素子〜独マイスナー研究所

 高温超電導体を用いたジョセフソン素子は、接合形成に困難があるため、その開発が遅れているが、結晶内部に天然に含まれるジョセフソン接合を用いての素子が新たな展開を示し始めた。独 Garching にあるWalther-Meissner-Institute の Paul Muller 氏らは Bi 系、あるいは Tl 系の高温超電導体単結晶の層間ジョセフソン接合を利用したジョセフソン素子を開発し、そのヒステリシス特性を含めた詳細データをマウイ島での日米共催の ISTEC/MRS 1955 International Workshop on Superconductivity (6月18 〜21日)で発表し、注目を集めた。同氏らの素子は 15 単位格子厚程度までの薄い結晶を用いて 30 ミクロン程度の大きさの接合を得るもので、個々の接合での電圧の跳びとヒステリシスが見られる高度な特性が得られている。
 接合は LaAlO3 基板段差を利用した垂直ステップエッジ法、またはイオンビーム加工によるメサエッチング法により作成され、接合の厚みは最小で 45 nm (15 格子)である。これにより 130 個の接合まで V-I 特性から個々の接合での多重跳びが観測された(図1)。
 また、交流ジョセフソン効果によるマイクロ波信号の非常に鋭いピークから、位相ロッキングが起こっていることが示される(図2)。さらに図3は最も薄い接合(15格子)で観測された個々の跳びを示す。
 このようにマイクロ波信号にシンクロナイゼーションが見られること、多重接合のために大きな電圧が得られること、また、素子体積全体が作動することから大出力の素子が期待できるなど、従来のジョセフソン素子とは異なる応用展開が期待される。発表者の Muller 氏によれば、「準粒子注入型クイテロントランジスタの可能性もあるのでは」としている。なお、本発表にはワークショップ素子部門の優秀性能賞が与えられた。

図1 タリウム系2223の垂直型ステップエッジ接合(厚み230nm)で得られた I-V 特性

図2 Bi2212 系(厚み1000接合分)の I-V 特性(左スケール)と交流ジョセフソン効果によるマイクロ波(93.7 GHz)信号の強さ(右スケール)。試料は光学用クライオスタットに入れられ、マイクロ波強度は外側より検知

図3 メサ型の 45 nm 厚のBi2212 接合で得られた V-I 特性。15単位格子中に含まれる30個すべての接合の寄与が見える

(JJY)


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