SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 3

LHC計画に参加決定〜高エネ研

 かねてより話題になっていた我が国のLHC計画への加速器建設協力が正式に決定した。5月に決定した平成7年度補正予算で、加速器建設協力として50億円を支出することになった。
 LHC計画は、ジュネーブの欧州共同原子核研究所(CERN)に既にある周長27kmLEP加速器のトンネル内に、衝突型超伝導陽子シンクロトロンを建設しょうとするものである。陽子のエネルギーは7GeV-7GeVで、質量の根源を説明するヒッグス粒子を探すことを目的としている。加速器は、8.36テスラ、長さ14mの双極電磁石約1300台、磁場勾配230T/m、長さ3mの四極電磁石約400台で構成される。使われる超伝導線材はNbTiであるが、磁場が強いために超流動ヘリウムを使い、1.9Kに冷却する。計画では、2段階で建設される予定で、2008年を完成としているが、我が国の協力決定で建設時期が早くなることが予想される。高エネルギー物理の装置ということで文部省がこの計画を管轄し、実際に超伝導磁石の開発・製作を坦当するのは高エネルギー物理学研究所になる。どの部分を担当するかは、今後のCERN との協議による。
 この加速器は、米国FNAL のTEVATRON 、ドイツDESYの HERA、さらに現在米国 BNLで建設中の RHICに続いて4番目の大型超伝導加速器になる。しかし、従来のものと違い、磁場が強いこと(マージンを考えると10テスラ級の磁石がいる)、超流動ヘリウム冷却をすること、トンネルの空間の制約から一つのヨークに二つのコイルが入るtwo-in-one 型であること、高ビーム強度のためビームロスによる発熱を考慮しなければならないこと等々新しい技術開発がいる。これによって開発されるであろう超伝導技術が、この分野に新しい発展をもたらすことが期待できよう。SSC の中止に伴い、多少意気消沈気味の我が国超伝導業界に意欲が沸くことも期待できる。
 我が国では、欧米のように加速器用マグネットを量産化した経験はない。今回の協力は、最先端を行く超伝導マグネットに協力するという点で学術的・技術的な点においても極めて意義あるものと言えそうである。

(弥次馬)


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