SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 12

As-grown でのborocarbide薄膜の低温合成

 金属材料技術研究所の有沢俊一、中村恵吉、戸叶一正氏らのグループは、ホウ炭化物系超伝導体の一種であるYNi2B2C薄膜のas-grownでの低温合成に成功した。この物質群は1993年にインドのTATA Institute of Fundamental Research のDr. L. C. Guptaらのグループが発見し、AT&TのR. J. Cava氏と東大 物性研のの高木英典助教授らが結晶構造を決定した系で、異方性やギンツブルグ−ランダウパラメータが小さいなどデバイス化に適した特性を持っており、バルクだけでなく薄膜化の研究が進められている。
 金材技研では既にマグネトロンRFスパッタリング法により、MgO基板上へのYNi2B2C薄膜の作製に成功していたが(Super-Com, Vol.3.No.3 1994.7)、従来は室温の基板上への蒸着後に1050℃でのアニールを必要としていた。この場合As-grownの状態では非晶質であり、アニールすることにより結晶化し超伝導体となる。しかし1050℃という比較的高い温度でのアニールは、デバイス化の際のプロセス上の問題や基板との密着性など、実用化に際し障害となり得る要素が残されていた。今回MgO(100)基板を約800℃に加熱した状態で約5mTorrのアルゴン雰囲気中でスパッタリングすることにより、ポストアニールすることなくより低温で結晶質の薄膜を得た。ターゲットは従来通りバルク試料を粉砕した粉状である。Tcは約13Kと現在のところポストアニールしたものに比べ2K程低いが、低温合成が可能であり作製が1工程で済むことから実用化には有利であると考えられる。また、より高い約23KのTcを持つYPd2B2C超伝導体は未だバルク、薄膜とも単相試料が作製されていない。非平衡相であるためas-grownでの作製が有望と考えられており、この相の合成を視野に入れながら更に研究が進められている。

(Young-ster)


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