SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 6

新しいNb3Sn線材を開発 〜 東海大学

 Nb3Snは最も実用的な高磁界超伝導線材であり、とくにTiを添加したNb3Sn線材、(Nb, Ti)3Sn は広く高磁界発生に用いられ、金属材料技術研究所において1.8Kで21.2Tの磁界を発生している。また、近年わが国で、冷媒なしの超伝導マグネット用線材としても注目されている。
 しかし、まだ、4.2Kで20T以上の磁界を発生できる金属系超伝導線材は開発されておらず、また、ブロンズ法Nb3Sn線材では、マトリックス内のSn 固溶量に限界(約7.5原子%)のあることや、線材加工の際、多くの中間焼鈍を必要とする問題点があった。東海大学の太刀川恭治教授のグループでは、さきに中間化合物を出発物質とするA15型 Nb3 (Al,Ge) 化合物の線材化について研究したが、今回その方法をNb3Snに適用して優れた特性を得て注目されている。
 Nb-Sn系の化合物としては、Nb3Snの他、Nb6Sn5及びNbSn2が存在するが、Nb3Sn生成のための中間化合物としてNb6Sn5を用いた。この化合物は新しく開発された溶融拡散法によって、写真に示すように粉末の形で容易に合成できる特徴を持つ。本製法では、この粉末とNb粉末をAr 雰囲気中でボールミルで機械混合処理を行なう。機械混合を3時間程度行なうと、Nb6Sn5とNbのX線回折線が拡がって分離し難くなり、Nb6Sn5とNbの間に予備的な反応を生じることがわかる。この混合粉体を成型して熱処理するとA15型Nb3Snが生成されるが、前述の予備的な反応は、Nb3Snの生成を促進する明瞭な効果がある。上記の混合粉末をTa管に充填して加工すると、中間焼鈍を行なわないで容易にテープ材(厚さ0.5mm、幅5mm)が作製できた。X線回折によると900℃で10時間程度熱処理すると均一なA15相が生成される。熱処理後のシース内のNb3Snコアは、約2μmの粒径の結晶粒からなっている。なお、EPMA分析では、熱処理を行なってもコアとシースの間の反応は認められなかった。
 超伝導特性については、900℃で熱処理を行なうと、遷移の中点で18.2Kの臨界温度Tcが得られたが、この値はブロンズ法Nb3Sn線材の値より約0.5K高い。2 原子%のTiをNbと置換した試料や、これに10重量%のCu を添加した試料も作製したが、Cu を添加した試料では、最適の熱処理温度が900℃から850℃に低下された。

テープ試料のIc-BおよびJc-B曲線、 Ns: Nb3Sn, NTS: (Nb, Ti)3 Sn, NTSC: (Nb,Ti)3Sn + 10 wt% Cu
写真
溶融拡散法で作成されたNb6Sn5 粉末

 図には、種々の試料の20T以上の磁界における臨界電流 Ic 及び臨界電流密度 Jc を示した。電源及び試料ホルダーの電流容量の関係で、Ic 測定は200Aまで行った。図に見られるように、純Nb3Snテープ材の上部臨界磁界Bc2は4.2Kで25T近くに達した。この値は、ブロンズ法Nb3Sn線材の値より約5Tも高い。試料のBc2 は、Ti置換によりさらに高められる。10重量%のCu添加試料では、850℃の熱処理でも優れた高磁界特性が得られた。 なお、混合粉体をプレス成型して熱処理したバルク材はテープ材よりやや高いTcとBc2を示した。テープでは、シースからの応力効果により、これらの値がやや低下すると考えられる。
 一方、Ic 値をNb3Snコアの断面積で除したJc は、図に示すように、20T、4.2Kで3.3×104 A/cm2以上となった。機械混合の時間もJc に 影響を与えるが3時間程度混合を行なうと、優れた特性が得られる。本製法によるNb3Snの正常状態(Tc 直上)の電気抵抗ρn は、ブロンズ法Nb3Snの値より明瞭に大きい。第二種超伝導体のBc2 はρn に依存するので、本製法によるNb3Sn試料の高いBc2 は、大きいρnによるものであろう。尚、この研究試料の高磁界特性は東北大学金属材料研究所強磁場共同利用施設により測定された。
 今後、本線材については、最適Ti 置換量の決定等の研究課題が残されている。将来はTaバリアを用いたCuシース線材が作製されるであろう。本製法によるNb3Sn線材はNMR等の高磁界超伝導マグネットや冷媒なしの超伝導マグネットに有望な新しい線材となろう。この研究に関して、実用的なNb3Sn線材のメーカーサイドから、昭和電線電纜(株)技術研究本部超電導研究部長市原政光氏は「素材が比較的安価なうえ、Ti等第三元素の添加も容易なので、高磁界特性改善を図りやすい。また、用途を限定すれば、当面、シングルコアでの使用も可能なので、加工工程が大幅に簡略化されたり、コストダウンが期待できるなど、興味あるNb3Sn線材の製法だ」とコメントしている。

(西東)


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