SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 5

極高真空装置内用の超伝導磁気浮上搬送装置を開発 〜 金材研

 科技庁金材研の土佐正弘、中村明子、笠原章、原田雅章、吉武道子、吉原一紘氏らは、10-10 Pa 以下となる極高真空中で無接触走行させることのできる超伝導磁気浮上装置を開発した。これにより従来の接触型駆動搬送方式の問題点である焼き付き、微粒子の発生、およびガス放出をおこさずに超清浄なまま基板を搬送できるという。
 浮上走行は酸化物超伝導体がその内部で磁束を固定するピン止め効果を利用している。超伝導体の上12mmのところに永久磁石を配置し、超伝導体を転移温度以下まで冷却すると、ピン止めのために、超伝導体内にそのときの磁場分布が保存される。したがって、超伝導体は永久磁石と冷却前の相対位置を保っているほうが安定であるため、両者の位置関係は保存されることになる。このため、磁石が超伝導体により近付こうとすると両者は反発し、遠ざかろうとすると吸引力が生ずる。よって、超伝導体を移動させると永久磁石が牽引されて走行することになる。
 磁気浮上式搬送機構は従来、常伝導電磁石や永久磁石から構成され、その浮上高さや走行安定性を保持するために、浮上高さを計測制御すると同時に移動子の振動を防止するためのセンサー、および位置制御機構が必要であった。しかしながら超伝導体を用いた磁気浮上搬送機構では、ピン止め力が強固で安定しているためにそのような浮上位置を制御する装置を省くことができ、したがって搬送機構本体が小型単純化できる。
 搬送装置は模式的に図1に示すように、冷却槽上部に設置するアーム型移動子、および真空チャンバー(20cmφ、長さ140cmの円筒形容器)から構成されている。移動子の下部にはSmCo永久磁石円盤(41mmφ×6mm,約1KG)が50cmの間隔で2個取付けられ、移動子の一端には基板搭載用アームが取付けられている。冷却槽内の超伝導体円盤は図2に示すように溶融法により作製したYB2Cu3O7-X (45mmφ×15mm)を用い、ヘリウムガス冷媒(〜数hPa)充填により超伝導転移温度以下(〜80K)まで冷却される。超伝導体によって永久磁石が取付けられた移動子が冷却槽上空に浮上固定する。移動子の往復走行は冷却槽内の超伝導体を外部駆動ベルトで機械駆動することにより行なわれた。
 まず、チャンバー内の圧力が10-9 Pa台になるまで真空排気した後、冷却槽内に置かれ、永久磁石との距離を12mmとした超伝導体を約90K以下まで冷却し、磁束をピン止めさせることによって搬送機構全体(約470 g)を冷却槽上7mmの高度に浮上させることが可能となった。さらに、移動子に重さ約50gの基板を搭載させ、10-9 Pa台の超高真空中で高度約3mmを保ちながら70cmの距離を約3cm/sec の速度で往復走行することができ、また、この時の圧力変動を10-10 Pa台以下におさえることに成功したという。
 「金材研では、現在この超伝導磁気浮上搬送装置(支線)とリニアモーター式の磁気浮上搬送装置(幹線)を組み合わせて次世代材料開発手法となる極高真空一貫プロセスの構築を行っている。この一貫プロセスが完成すれば原子・分子レベルで構造制御と観察評価ができるようになるため、量子効果をもつ極微構造物質を人工的に創りだせるようになる」と表面界面制御研究部の吉原一紘部長は期待している。
図1
搬送装置の模式図
図2
超伝導体円盤

(土佐乃湖)


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