SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 3

YBCO線材、臨界電流密度106 A/cm2台に突入 〜 米ロスアラモス研究所

 ロスアラモス国立研究所(LANL)は、4月に開催されたMRSミーティングにおいて、YBCO線材の臨界電流密度(Jc)が106 A/cm2台に突入したことを報告した。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のバッファー層を設けたニッケル合金テープ上にレーザー蒸着法でYBCOを合成したテープは、0TでのJcとして1.3×106 A/cm2を有し、単結晶基板に作製したYBCOのJc値に匹敵する106 A/cm2を実用的なテープ線材形状で初めて達成した。磁場中のJcも9Tで c 軸に垂直に磁場を加えた場合105 A/cm2、c軸に平行な条件でも2×103 A/cm2と優れている。測定テープ長は4cmで温度はいずれも75K。
 YSZバッファー層はイオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)で作製され、高度に面内配向している。金属テープ上にYSZ等の酸化物バッファー層を介してYBCO を気相法により合成する線材化手法は、1988年頃から国内では金材研や電線メーカーにおいて、外国ではニューヨーク州立大等で研究されてきた。この中でフジクラのグループはYSZバッファー層合成時にIBADを採用することで面内配向化の実現に初めて成功し、液体窒素温度でのJcを一気に105 A/cm2台に上昇させた。その後、同様の手法によるYBCOの線材化研究に拍車がかかっていたが、LANLのグループはこの手法を改良し、昨年秋に Jc値 8×105 A/cm2(77K , 0T)を報告していた。
 LANLのグループはテープ線材の歪特性も報告しており、1%の圧縮側の曲げ歪みに対し、臨界電流の低下は10%以下であったとしている。引っ張り側では、0.5%の歪で超電導を示さなくなったが「ニッケル合金テープを薄くする(現在は厚さ0.132mm)ことで鉛筆に巻き付けることも可能」としている。彼らは線材特性を単結晶上のYBCOレベルに引き上げることを究極的な目標としているが「可とう性を有し、かつ、単結晶基板と同様の機能を有するYSZ基板をいかに蒸着するかが問題。IBAD法はYSZの配向性改善に有用である」、「高速化や長尺化についても根本的な障害はない」、としている。
 スタンフォード大学のグループはIBAD法によるYSZバッファー層を用いたYBCO線材の詳細なコスト計算を行ない、最終的には1kA・m あたり7ドル以下になると結論している。これは1月にフロリダ州で開催されたDOEのHTS線材開発ワークショップにおいて設定された目標1kA・mあたり10ドルを下回っている。さらに、将来YBCO線材は77K(0T)において3×106 A/cm2を達成可能とも予測している。
YBCO薄膜テープ線材の実用化については Super-ComVol.4, No.1(1995.2)でも最近の研究動向を解説したが、今回の発表は単結晶レベルの特性をYBCO 線材でも実現できることを実証した点で、極めて重要な意味を持つと言えるだろう。酸化物超電導材料の本領と言える液体窒素温度での強磁場発生装置実現を含め、今後の動向が注目される。

(HMJ)


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