SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 2

画期的!ピン止め中心入りBi系超伝導線材登場 〜 金属材料技術研究所

 科学技術庁金属材料技術研究所の田中吉秋氏らのグループは、これまで機械的強度に優れるAg/Cu合金をシース材としたBi2223線材を作製してきた。このたび、住友重機械、助川電気との共同で、この合金シース材にさらにTi、Zr、Hfを微量添加することによりBi2223線材のピニング特性が大幅に改善されることを発見し、これを先の低温工学会で発表するとともにPhysica C誌に投稿した。最も注目すべき点は、従来、照射以外の方法では有効なピン止め中心の導入が難しいと考えられていたBi2223の結晶中に、径が100〜300\AA、厚さ15〜40\AAという非常に小さい円盤状の非晶質相を分散させた点である。
 合金シ−ス材の組成はAg90%/Cu10%合金をベ−スに第3元素であるTi、Zr、Hfを微量(0.1at%以下)添加したものである。これにPowder-in-Tube法により酸化物粉末を充填、線材加工を行なっている。中間圧延を挟んだ827C、200時間焼成後の線材について、通電法によるJcの評価、VSMを用いた磁化曲線の測定が行なわれた。これら第3元素を添加した線材ではBi2223の平板状結晶が非常に大きく成長しており、無機材質研究所の堀内繁雄氏らによる高分解能透過電子顕微鏡観察により、その結晶中に先述の円盤状アモルファス領域の分散が認められた。図1は円盤状欠陥の分布の様子を模式的に示したものである。アモルファス領域にはCaが多く、また、第3元素は低濃度であるが超伝導相中全体に混入していることが確認されている。田中氏らのグループによれば、「2223結晶は大きくなっただけでなく、平坦性が良くなっていることから、第3元素は、結晶の歪みの解放に特殊な影響を及ぼしているのかも知れない。第3元素をシース材から拡散させる本方法は、その分布において粉末などの形で最初から第3元素を超伝導相に混ぜる方法より優れ、このため全く新しい組織が形成されたのではないか。」という。
 4.2K、12T(H // ab )でJcの最も高いものは105A /cm2を超えるが、高温での特性の改善はより顕著である。図2は60Kで測定された磁化曲線(H //c)のヒステリシスの幅の磁場依存性を示したものであるが、Ag/Cu/Hfシース線材のほうが、通常のAgシース線材よりもヒステリシスの磁場に対する減衰の割合が小さいことが良くわかる。そして明かに不可逆磁界が高くなっている。Hf添加線材の不可逆磁界は80K、H//cにおいても3.5TとBi系線材としては驚異的に高い値を記録している。同様な磁化特性改善の効果はTi, Zr 添加の場合にも確認されている。
 この発見は、これまでBi系超伝導体の高磁界応用を阻んでいた厚い壁に大きな穴をあけたもので、画期的な高温仕様の強磁界発生機器の登場が現実味を帯びてきた。

図1 円盤状アモルファス相が分散したBi2223結晶の模式図

図2 磁化ヒステリシスの大きさの比較(試料形状はほぼ同じ)

(JRA)


続報
金材研のBi系テープの不可逆磁場大幅向上〜大きな話題に(Vol. 4, No. 3)
訂正
Bi2223/Ag-(Ti,Hf,Zr)シーステープの特性について(訂正)(Vol. 4, No. 4)

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