SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 1

ビスマス系超伝導体で臨界電流特性大幅向上の噂

 Bi系超伝導体への有効なピン止め中心の導入は、3年前の日経超電導の年賀状で「本年達成される画期的発展の予想」にも挙げられたように、ここ数年、超伝導産業の命運を左右する最も大きな課題の一つとして考えられてきた。その試みはこれまで数多く行なわれてきたが、明かに効果的であったのは非工業的手法の照射だけであり、 元素添加などの手法では、弱すぎる高温でのピニング力の改善には焼け石に水程度の効果しか認められていなかった。
 ところが最近、米国からビスマス系線材の臨界電流に大幅な向上がなされたとの噂が伝わっていることが読者より伝えられた。本紙編集局で調査の結果以下の二つがそれに該当するらしきことが判明した。ノルウェー工科大学トロントハイムの K. Fossheim 教授の研究室は、日本電気プリンストン研究所のT.W. Ebbesen 博士、米国国立強磁場研究所の J. Schwartz 博士らと共同で、ビスマス系2212 超伝導体の中にカーボンナノチューブを分散させることに成功。これを磁化ヒステリシス法で評価したところ、粒子内臨界電流の値で約1桁の向上が見られた。カーボンナノチューブの太さはボルテックスと同程度であるため、いわゆるコラムナー欠陥と同様のピン止め機構が働いたものと見られる。東京大学工学部超伝導工学専攻助手の下山淳一氏によると「コラムナー欠陥により、粒子内臨界電流は向上するが粒子間臨界電流は劣化する傾向があるので、この方法でも通電による臨界電流向上がありうるかが興味のあるところ。それにしてもナノチューブが壊れずに導入できたとは面白い。」とコメントしている。コラムナー欠陥の有効性が話題になった頃、「 ナノチューブがちょうど良いのでは」という冗談(?)が囁かれたことがあったが、本当に試してみたところはさすがと言えるであろう。詳細は特許申請中で公表されていないがPhysica C に受理されたところ。
 一方、オランダライデン大学の P. Kes 教授の研究室ではビスマス系にチタンなどの高原子価イオンを導入することで大量の積層欠陥と思われる構造が発生し、やはり、ピニング力が大幅に上昇したといわれる。これは、この間の低温工学協会春期発表会で金属材料技術研究所の田中吉秋氏らの発表で同様の報告があった(つぎの記事に詳細)のと似ている。実際上どの程度の線材としての臨界電流向上につながるかは未知数であるが、実用的にもすぐにインパクトがあり得る結果である。
両結果ともにマウイ島で6月19ー21日に開催される ISTEC/MRS のワークショップで発表される。Fossheim 氏らの 詳細は Late News として同じセッションで発表の予定。

(K)


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