SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 18

高温超伝導機構論議に異変 〜 スタンフォードスペクトロスコピー会議

 3月13日より米国スタンフォードでスタンフォード大の Shen 教授らの主催した「高温超伝導のスペクトロスコピー国際会議」第3回が開催された。最近の風潮としてクーパー対についてs波に対してd波の対称性を主張する実験が圧倒的に多くなっていたが、この会議ではやや異変が起きている。
 その典型例は光電子分光の結果である。この会議までは、主催者の Shen 教授らの電子分光の結果が dx2-y2 の対称性を支持するとして、d波の強い証拠であるとされてきた。今回の会議の雰囲気は、本誌今号の記事にも述べられているアルゴンヌ大と東北大の共同研究データが多く引用され、むしろ、電子分光の結果が異方的s波の証拠として使われる結果となっていた。
 しかしながら、筆者の印象では、両者のデータの差はわずかで、非常に細かい部分からまったく違った結論を導いており、サンプルの差によるのではないか、測定のk- 空間分解能の差ではないかなど、議論はやや泥試合的様相を帯びてきた。いずれにせよ、電子分光の結果がこれまでのようにd波の証拠とされる地位から滑り落ちたことは確かである。(事務局注:同会議に参加した東大理 福山秀敏教授によれば、Shenらはその後の実験で装置の分解能をむしろ落すとアルゴンヌと東北大の共同チームが得た結果と似た結果が得られると主張し、それに対して反論がなかったとされる。一方の高橋氏らは「自分達の用いた単結晶は金材研がフローティングゾーン法で製作した良質のものであり、他はフラックス法で作ったものなので劈界表面が汚染されているのではないか」と平行線である)
 一方、高温超伝導と低温超伝導を組み合わせて(1)、あるいは高温超伝導体の方位の違う結晶を組み合わせて(2) SQUID を形成し、接合部での超伝導位相の干渉を考慮する、いわゆる p-junction の研究結果がやはり参加者の話題となっていた。(1)の研究はイリノイ大の Harlingen らによって、(2)の研究は IBM Yorktown Heights のKirtley あるいは Chaudhari らのやや異なる二つのタイプがある。このような研究では Chaudhari のみがs波を主張し、他はd波を主張している。今回,発表は行われなかったが話題となっていたのはKirtley らの新しい結果で、径 10 mm の小型化した走査型 SQUID顕微鏡を作成し、これを用いて高温超伝導エピタキシャル薄膜中の小さな3角形のドメイン(結晶方位は周囲と異なる)内での磁場分布を測定した。ゼロ磁場冷却でもフラックスのトラップを見い出したが、トラップされている個々の磁束はいわゆる量子化磁束値 hc / 2e の 0.2 倍といった値であり、整数倍や半整数倍にはなっていない。ただし、1つの3角形全体にわたっての磁束を足し合わせると量子化磁束単位の整数倍となっている。この結果が正しいとすると、高温超伝導の粒界付近では時間反転対称性が破れていることになり、p-junction に関する議論は再び白熱化しそうな形勢である。現在の時点では、センサーの位置分解能が磁気侵入長に比して低いため、個々の磁束を十分に分解するに至っておらず、実際に量子化磁束を捉えているかどうかは不明である。

(Hasse)


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