SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 19

T' 構造の p-type 超伝導体に疑惑?

 昨年7月のM2S-HTSCにおいて中国科学アカデミーのZhao氏が、T'構造の30K級酸化物超伝導体、Tm1.83Ca0.17CuO4の合成に成功したと報告し、頂点酸素を持たないp-type超伝導体という点で注目を浴びた。頂点酸素がないp-type超伝導物質としては頂点位置にFやClがあるものが知られているが、頂点に何もない純粋なCuO2 二次元面からなるp-type超伝導体はこれまでにない。合成法、特性の詳細はPhysica C230巻 385~388頁に掲載されている。6GPaという高圧を用いる点を除けば単純な合成プロセスであり、かつ非常にきれいな粉末X線回折パターンが示されたことから追試は容易であると考えられたが、これまでに成功したという報告がない。追試を試みている青山学院大学の秋光純教授、京都大学の広井善二助教授らはともに「超伝導にならないどころか、そもそもT '構造ができない」という。
 ところで、昨年12月8日に無機材質研究所の泉富士夫主任研究官宛てにZju氏(前出Physica C論文のfirst author)から送られたe-mailによれば、中国科学アカデミーでは別の高圧装置を用いても25Kで超伝導を示す試料が得られているという。また、超伝導にするために最後に80~100CのKMnO4 溶液中で試料を酸化しているというが、この処理は論文には記されていない。そこで、T '構造を示す粉末X線回折パターンが酸化処理後に調べられたものかどうか疑わしくなってきた。もし、酸化処理前に調べられたものであるならば酸化処理時に頂点酸素が導入されている可能性が否定できない。追試の成功も含めて、この物質が広く認められるような、明解な報告が待たれる。

(JRA)


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