SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 14

新原理の磁気浮上技術開発、模型実験に成功 〜 KAST、安川電機

 神奈川科学技術アカデミー(略称KAST)が推進中の「極限メカトロニクス」プロジェクトの樋口俊郎プロジェクトリーダー(東大精密機械工学科教授)と筒井幸雄研究員(安川電機から出向)らは、昨年高温超電導体を用いた新しい磁気浮上現象を発見したが、今回この技術を用いて、超高速列車の浮上への適用を目的とした磁気浮上リニア走行車モデルを試作、浮上に成功した。高温超電導体を用いた磁気浮上リニアといえば従来は高温超電導体を収めた浮上体の走行に永久磁石を多数敷き詰めた軌道を用いていたが、新浮上法では永久磁石を用いず鉄の軌道のみで浮上を実現できる。
高温超電導体の近くに永久磁石を置いて冷却(磁場中冷却)すると、高温超電導体は磁石から受けていた磁束を内部にピン止めする。このため高温超電導体と永久磁石との相対位置を保持しようとする復元力が両者間に働く。一般的にはこの高温超電導体と永久磁石の組み合わせのまま一方を固定側、他方を移動側としてリニア搬送装置や磁気軸受けなどの浮上装置を構成している。磁石を敷き詰めた軌道の上で高温超電導体が入った車両を浮上させ、走らせる。この浮上列車の小型モデルも試作されているが、膨大な数の磁石が必要であることを考えると、コスト的にも実用化は難しい。
 昨年発見された現象は、高温超電導体にピン止めされた磁束分布を鉄で変化させようとすると、高温超電導体がそれを拒み、このため両者間に働く吸引力が変化を妨げる形で増減する、というもの。この方式では、磁場中冷却後に永久磁石を取り去り、鉄などの強磁性体で作った部品と置き換える。磁石を取り去っても超電導体には磁束が残っているので鉄製部品との間には磁気的な吸引力が働くが、この部品で超電導体の磁束を歪ませることで吸引力が減少する。このとき、鉄製部品の断面積を超電導体の磁束が分布している面積より小さくし、”磁力線を絞る”ことが重要なポイントとなる。吸引力は超電導体と鉄製部品が近づこうとすると弱まり、遠ざかろうとすると強くなるように変化し、復元力として働く。この現象を利用すれば、縦方向及び横方向の移動が抑えられ、一方を他方の下で安定につり下げることができる。永久磁石は磁場中冷却の段階では使用するが、浮上状態では必要としない。
 昨年、超電導体の下で180gの鉄製おもりを宙に浮かせることに成功(本誌Vol.3, No.2に掲載)。今回開発したリニア走行車モデルでは、磁束の通り道を改良。鉄製レールにぶら下げる形で高温超電導体、液体窒素を含めて、重量1.4Kgの車両を約0.5ミリのギャップで浮かせ、接触することなく、1.8メートルのレ ール下を走らせることに成功した。このモデルは駆動機構を持たないので、今回はレールをわずかに傾けることで推力を得、浮上体を走行させた。しかし現有のリニアモータを組み合わせることにより、高速走行を実現することが可能だ。なお、前述のとおり鉄製レールと高温超電導体だけでも浮上できるが、今回は超電導体のピン止め磁束を強化する目的で車両内に永久磁石を設置している。
 このプロジェクトでは「鉄と高温超電導体を組み合わせたこの新しい浮上方法は、軌道を永久磁石から機械強度やコストの面で圧倒的に有利な鉄に置き換えることができるため、磁気浮上高速列車やクリーンルーム内非接触搬送装置などへの高温超電導体の応用は大幅に容易になる」と考えている。KASTは今後、より現実的なモデルの開発に乗り出すもよう。

(PAPA)


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