SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 13

超高速データ処理用超電導集積回路 〜 日立中研

 高度情報化社会の発展に伴って、コンピュータ間やコンピュータと周辺機器との間で大容量のデータを高速にやりとりし、かつ処理するハードウェア技術の一層の進歩が必要になってきている。この進歩を実現するためのブレークスルーとして 1)超電導(ジョセフソン)素子の超高速性の活用 2)光信号による高速大容量伝送と超電導素子技術との融合、が有望である。
 日立製作所は、基盤技術研究促進センターの融資を受けて、超電導素子技術の一層の高度化と超電導集積回路への光信号による情報の入出力技術の新規開発など、半導体技術では到達できない超高速のデジタル信号処理技術を実現するための基本技術の開発を行った。
 この試験研究ではジョセフソン素子を用いた超高速データ処理用集積回路を構成するために必要な基本技術として、以下の5つの技術課題が目標として設定され開発が行われた。
 1)高速A/D 変換回路技術 ジョセフソン素子を用いた直流電源で動作する超高速のA/D 変換回路の開発
 2)高速デジタル信号処理技術 誤動作が少なく高速化に適した、直流電源で動作するデジタル信号処理用ジョセフソン論理回路の開発
 3)超電導光検出回路基本技術 光信号を電気信号に変換することのできる超電導素子の新規開発とこれを用いた光信号によるデジタル 信号の超電導論理回路への入力
 4)発光素子駆動用回路基本技術 発光素子が駆動できる電圧レベルまでジョセフソン論理回路の出力デジタル信号を昇圧するためのジョセフソン回路の開発
 5)作製プロセス高度化技術 上記の各ジョセフソン回路を作製するための、超電導集積回路作製プロセス技術の安定性と信頼性を向上させるための研究開発
 この回路は超電導体に耐久性に優れたニオブ薄膜を用い、液体ヘリウム(絶対温度4.2K)中で動作する。寸法を微細化し、同時に信頼性も優れた回路を実現できたとしている。この回路の試験結果においては入力信号の周波数が6ギガヘルツまで正常な動作が得られており、この時の回路の最高動作周波数は入力信号の2倍の12ギガヘルツである。この結果は、直流電源で動作するジョセフソン回路としては最高の水準にある。直流電源で動作するジョセフソン論理回路の高性能化を図ったため、このALU は全体の回路の数を少なくして、演算に要する時間を従来の約1/2以下に短縮できるようにした。
 光信号の入出力に関しては、光信号を検出してジョセフソン論理回路へデジタル信号を伝えるための超電導素子と、直流電源で動作するジョセフソン昇圧回路を初めて開発した。これらを用いて室温の信号源で発生させたデジタル信号を光ファイバを用いて液体ヘリウム中のジョセフソン論理回路へ入力し、上記の昇圧回路を経由して、半導体レーザを駆動し、光信号として取り出す実験に成功した。この実験によって超高速の超電導回路技術と高速大容量の光伝送技術との融合が初めて可能になった。
 この試験研究により直流電源で動作するジョセフソン回路を用いた超高速集積回路を実現する見通しが得られた。さらに、この集積回路の入出力として光による高速信号伝送が可能になった。これらの技術は超電導素子を用いた超高速デジタルシステムの研究開発に活用して、今後の超電導エレクトロニクス分野の発展に役立てる。実用化に向けては冷却や低温実装などについてさらに試験研究を行う必要がある。さらにこの試験研究によって得られた、動作周波数10GHzを超える超高速回路の設計及び評価の研究結果は超高速エレクトロニクスの基礎技術として非常に有用な知見を豊富に含んでいる。これらの結果は超電導エレクトロニクスの分野に限らず、半導体素子を用いた超高周波デジタル回路の研究へも幅広く活用可能である。

(Wave)


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