SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 4

高強度Nb3Sn超電導マグネットの実証試験に成功 〜 東北大学・フジクラ

 東北大学金属材料研究所の渡辺和雄助教授は(株)フジクラの研究グループと共同で高磁場において線材に発生する強い電磁力に対して充分な機械的強度を持つ高強度補強安定化型Nb3Sn 超電導線材を開発し、最近この線材を用いた高磁場マグネットの実証試験に成功したと発表した。
 現在、超電導マグネットには超電導線材として、NbTi線材が多く用いられているが、NbTiは臨界磁場の制約から主に10T以下の磁場発生用に用いられている。これに対しNb3Sn線材は元来臨界磁場がNbTiより高く、またTi等の第三元素を添加することにより、さらに特性が向上するためNbTiでは発生不可能な定常強磁場発生が可能である。
 強い磁場を広い空間に発生させるNb3Snマグネットはこれまでにも開発されているが、従来は高磁場下で超電導導体に加わる電磁力により導体の特性劣化を生じないようステンレステープ等の補強材料を線材と同時に巻き込んだり、マグネットを高強度ケースに収納するなどの対策がとられてきた。このことにより、電磁力に対する機械的強度は上がるものの、巻線部の非超電導構成材料の占める割合が増大し、コイル電流密度の低下が避けられずマグネットが大型化するなどの問題があった。これはNb3Snマグネットの製造工程においてNb3Sn生成のための熱処理が必要なため、安定化金属である銅が充分焼き鈍された状態になり線材強度が低下してしまうことに起因し、150 MPa程度が電磁力の上限値であった。
 これまでにも線材補強法としてステンレス部材を線材の内部に埋め込む手法などが提案されているがマグネット実証試験までは行なわれていなかった。これに対し今回の補強安定化型Nb3Snマグネット実証実験の成功はNb3Sn線材の構成要素であり、線材外周部に配置した安定化銅の一部をCu-Nb合金で置き換えることで、熱処理を経た後でも線材の機械的強度を充分高めることに成功したもの。Cu-Nb合金は電気伝導度が高いため補強材としての役割と安定化材としての役割を同時に兼ね備えられる点が今回の実証試験の成功につながったと言えるだろう。
 今回の実証試験に用いられた補強安定型Nb3Sn線材は、従来線材において安定化金属として純銅が配置される線材外周部にCu-Nb 合金をリング状に配置したもの。
      東北大とフジクラのグループはかねてよりこの補強安定化構造線材の有用性を検証してきており、液体ヘリウム温度の線材機械特性として250MPaから300MPaの高い降伏応力を持つことを報告していた。今回のマグネットはこの線材をワインド・アンド・リアクト法によりソレノイド型マグネットとしたもので、680℃で8日間の熱処理によりNb3Sn を生成させた。実証マグネットは東北大学金属材料研究所において10Tのバックアップマグネット内にセットされ、実証マグネットを励磁することで線材に従来線材では耐えられない電磁力を実際に発生させた。この結果200MPaを超す電磁力に対しても実証マグネットを安定に動作できることが確認され、最高220MPaの電磁力を発生させても全く問題はなかったと報告している。線材以外に特別な補強部材は使用しておらず、この結果は今後の高磁場マグネット用線材構造の方向性を示す結果であるといえるだろう。
 線材および実証マグネットの開発を行ったフジクラ超電導研究部の後藤謙次氏は「今回の実証試験では補強安定型Nb3Sn線材の有用性をマグネットとして実証したという点で極めて重要な結果が得られたものと考えている。特別な補強部材を用いなくとも従来線材では不可能な220MPa の高い電磁力に対してマグネットが問題なく運転できたことはコイル電流密度の増大や高磁場発生用マグネットの小型化に結びつき、今後の高磁場用線材の方向性を示す結果であると考えている」とコメントしている。なお、この実証試験結果は5月に開催される低温工学・超電導学会において発表される。

(MAGMAG)


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