SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 3

110Kで105 A/cm2 〜 Hg系薄膜で驚異のJc

 液体窒素温度での本格的な超伝導応用に向けて、またひとつ大きな前進がもたらされた。IBM T. J. Watson Research CenterのL. Krusin-Elbaumらは、HgBa2CaCu2O6+d薄膜で驚異的なJc が観測されたことを、2月23日号のNATURE誌上にて報告した。
 論文*によれば、同グループはレーザーアブレーション法を用いてHgO、Ba2CaCu2Ox プリカーサよりSrTiO3基板上に作製したc軸配向のエピタキシャル薄膜を、バルクHg-1212 結晶及びプリカーサのペレットとともに石英管に封入、アニール処理をすることでHg-1212相を安定化し試料とした。Tc は120Kで、抵抗率、磁化率ともに非常に鋭い転移を示した。c 軸に平行な0.005Tの磁場下において同試料の Jc (ab 面内)を求めたところ、5Kで107 A/cm2、110Kでも105 A/cm2という非常に高い値が得られた(下図参照)。
 もっともこれらのJc 値は、磁化ヒステリシスの観測データより臨界状態モデルを用いて間接的に求めたものであり、粒界の弱結合によるJc の低下は考慮されていない。しかしながら著者らは、薄膜試料ではバルクに見られるような弱結合の効果は著しく低減されるとして、結果の重要性を強調している。この問題に関しては直接的な方法によるJc の評価を待つほかない。
 しかし、ともかくこの結果を素直に受け取るならば、Hg系は Tc だけでなくJc でも高温超伝導の頂点に立ったことになる。現在のところは、封入アニールを必要とするなど試料作成上の難しさもあり、直ちに薄膜線材等への応用が可能というわけではないが、もし実現すれば従来材料の性能を液体窒素で実現できることになる。やはり応用上インパクトのある結果であることには間違いない。  またab 面内の磁場に対しては1T、40Kで108 A/cm2 を記録、5T、70Kでも107 A/cm2 が得られ、強いintrinsic pinningの存在を示唆するデータとしても注目される。詳細は原著を参照されたい。 * L. Krusin-Elbaum, C. C. Tsuei, and A. Gupta ; Nature 373, 679 (1995)
図:c 軸方向の磁場下におけるab面内臨界電流密度( Jab, Jc )の温度依存性

(大江春泥)


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