SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.1, Feb.1995, Article 22

新超伝導体ーホウ炭化物からホウ窒化物、立方晶などに展開

一連の層状ホウ炭化物超伝導体が最近発見され、23Kにおよぶ臨界温度が見いだされていたことから興味が持たれていたが、さらに異なった積層パターンを持つホウ窒化物やトリウムなどアクチノイド元素を含む非層状の立方晶超伝導体が現われ、ホウ素、炭素、窒素などの化合物群に新物質探索の手が伸び始めている。
 酸化銅系高温超伝導体出現以降、新物質探索の努力の中で、酸化ビスマス系、C60系に続いてホウ炭化物が従来金属超伝導体よりも高い臨界温度を有する新物質として登場してきていたが、ホウ炭化物は1992年、インド TIFR(Tata Institutute of Fundamental Research) で Mazmudar, Gupta らによりそのプロトタイプが発見され、東大工高木ら、ベル研Cavaらにより高い臨界温度の物質群が発見されていた。これらは RETM2B2C の基本組成式で表現され、RE は稀土類、TM は Ni, Pd, Pt などであった。この中で最高の臨界温度を有するのは YPd2B2C (23K) であるが、単一相の合成が難しいなどのため、物性研究はむしろ YNi2B2C で進められ、これらの系が比較的高い電子状態密度を持つ、クリーンリミットの超伝導体で、電子格子相互作用、あるいは強い電子相関に基づく反強磁性スピン揺らぎが超伝導の機構であるらしいことが報告されてきている。
新しい動きとして、Cava, 永崎、高木らは (REC) と (TM2B2) の積層を変化させるという発想から、(LaN)3(Ni2B2) 構造で 12K の超伝導体を見いだした(Nature:32, 245 (1994))。
ごく最近広大総合の高畠、藤井ら(J.Phys. Soc.Jpn, 63,2853(1994))、UCSD の Sarrao, Maple ら(Physica C229, 65(1994))によりヘビーフェルミオン超伝導体への興味とも関連してアクチノイド系( ThPdB 系)への展開がなされ、さらに Zandbergen らにより、これらの中に CaB6 型の立方晶構造をもつ 21K の臨界温度を有する ThPdB 系化合物が存在することが指摘されている(Physica C226, 365(1994))。このことはこれらの系で高臨界温度出現に層状構造が必須因子ではないことを示すと考えられ、高温超伝導発現機構にとって重要な示唆を与えるものと考えられる。
 物性研究所の高木英典助教授は、「超伝導になる物質とならないものとではどうも陰性元素と金属元素との電子軌道の混成の度合いが違うようだ。軌道混成が小さく、フェルミ面が金属イオンのみに限定されるよりは、陰性元素にまで広がることが経験的に有利であることが示されてきている。このような観点から、他の超伝導体を眺めてみることにも興味があろう。」と述べている。

(HKT)


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