SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.1, Feb.1995, Article 18

マルチチャンネルSQUIDの現状と将来

 現在、企業でマルチチャンネルSQUID 装置の開発を行なっているのはBTi(米国、37ch×2)、CTF(カナダ、 64ch )、Neuromag (フィンランド、122ch)、Siemens (ドイツ、37ch )、Philips (ドイツ、31ch×2)などである。その中で製品化を行なっているのは前3社であり、日本国内にもこの3社の装置が10台以上設置されている。これらの装置のセンサー部には Nb系の Ketchen 型DC-SQUIDと一次微分型検出コイルが用いられており、最小磁場分解能はどれも10fT/\sqrt{Hz}程度(マグネトメータ換算)である。
 一方研究機関で開発を行なっているのは超伝導センサ研究所(日本、256ch)、PTB(ドイツ、83ch)などであり、こちらはマルチループ型(Drung型)DC-SQUIDを用いて5fT/\sqrt{Hz}以下の最小磁場分解能を達成している。ただしマルチループ型の素子では検出部が微分型とはなっていないため、高性能磁気シールドルーム内での計測が前提となっている。このほかにイタリアの CNRでも153chの装置を構築するという計画があるが、これについては詳細はよくわからない。これらの装置で使用されている駆動回路は変調型FLL(Flux Locked Loop)回路と直接帰還型FLL 回路に大別される。変調型回路はSQUIDの開発当初から用いられている回路であるため技術的な蓄積は多いが、回路規模が大きくなるためかならずしもマルチチャンネル化に向いているとは言いがたい。これに対し、直接帰還型FLL回路は低周波領域の雑音性能では変調型に劣るものの簡易な回路構成であるためマルチチャンネル向きの回路といえる。
 現在この直接帰還型FLL回路はNuromag、PTB、超伝導センサ研究所など特にチャンネル数の多い装置で採用されている。筆者の知るかぎりにおいては、以上がマルチチャンネル装置の開発を行なっているところであり、共通してその研究フェーズはハードウェアの開発からソフトウェアの開発へ移行してきているようである。研究形態も医学関係者との共同研究が主流となってきている。
 実際昨年開催された ASC' 94(ボストン)においてもマルチチャンネル装置の発表は2、3件しかないという状況であった。Nb系のSQUID に代わって、会議を賑わしていたのは高温超伝導体によるSQUID装置 である。マルチチャンネル化という点では超伝導センサ研(16ch )、BTi(4ch)の2件の発表があった程度であるが、装置単体の磁場分解能を向上させるという点では非常に活発な研究がなされており、飛躍的に進歩しているグループもあった。例えばUCB(米国)&PTBのグループは10mm□基板上に作製したコイル径φ7mmのマルチループ型DC-SQUID においてホワイトレベルで18fT/\sqrt{Hz}、1Hzで37fT/\sqrt{Hz}を達成しており、コンダクタス(米国)は20mm□基板上に作製したダイレクトカップル型DC-SQUIDにおいてホワイトレベルで10fT/\sqrt{Hz}、1Hzで26fT/\sqrt{Hz}を達成したと発表していた。これらのグループはジャンクション特性の向上とSQUIDへの磁束伝達径を最適化することにより高分解能なSQUID 素子が作製可能となったようである。
 しかし高温超伝導SQUIDが全ての点でNb系SQUIDに近づいているわけではなく、素子に関しては特性のばらつき、生産性等解決すべき問題が多いことも事実である。また、駆動回路に関しても現状では直接帰還型回路を利用できるレベルにはいたっておらず、低周波雑音低域のためバイアス電流を交流方式にする必要もあるなど回路は複雑化・大規模化している。ただ高温超伝導SQUIDの研究人口や近年の開発スピードを考えるとこれらの問題が解決されるのは時間の問題であり、またその場合、装置の殆どの部分でNb系SQUIDの装置開発を通じて培われた技術が生かせることになり急速にチャンネル数の増大することが予想される。

(ももたろう)


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