SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.1, Feb.1995, Article 11

バルク高温超電導体の臨界電流の向上と電力応用 〜 ヘキスト社

 ヘキスト社は Melt Cast Process(MCP)法で作製したBi2212バルク材の、高温超電導の電流リードや限流器などの電力機器への応用を目指した材料開発を進めている。昨年の10月に米国で開催された超電導応用会議(ASC'94)では、銀電極の付いた直径70mm、長さ200mmのチューブ(内直径58mm)で直流7.5kA、交流10kAの通電に77Kで成功したと発表した。この値はバルク高温超電導体への通電電流では世界記録である(東芝が同じ直流通電電流値をもっと細い外形9.5mmのY系バルク材に流すことに成功したと前号のSuper-Com Vol.3, No.5にある)。臨界電流は1μVのクライテリオンで6.4kA、電流密度は自己磁界下で1kA/cm2 である。また小倉で11月に開催されたISS'94では誘導タイプの限流器用の超電導リングについて、同じMCP法に遠心法を適用することにより、直径400mmのものができるようになったことを発表した。大型の高温超電導リング開発の成功は、電力系統に適用可能な規模の高温超電導限流器の開発に道を開くものである。
 高温超電導電流リードは銅のリードに比べて熱伝導が小さいことから、低温超電導を応用した機器の電流リード部からの熱侵入を大幅に減らすことができるので、高温超電導の応用対象としてはやくから開発目標の一つに掲げられ、1990年のASCではWH社がSSC用に2,000A級のものを発表していた。しかしこれは100A級のYBCOバルク材を20本束ねたもので、電流密度も低く、このため熱侵入量も多かった。ヘキスト社の電流リードが1本のチューブで直流7.5kAの通電が可能になったのは、電極の低抵抗接続技術の進歩に負うところが大きい。銀電極との間の接触比抵抗は77Kで2μΩ・cm2 が達成されており、直流7.5kA通電時の接触抵抗は0.1μΩと報告されている。
 ヘキスト社は現在進めているプロジェクトには、5kA/50kVの交流電流リードがあり、アルカテル社とジーメンス社と共同で開発中である。これはおそらくアルテカル・アルストムが開発中の低温超電導限流器に使用されるものと思われる。交流超電導機器には永久電流モードが使えないので、低温超電導の交流機器にとって高温超電導電流リードを装備することは、効率よくするための必須の条件となる。
 最近、高温超電導の限流器への応用のための研究が増えている。ASC'94では初めて限流器のセッションが設けられ、11件もの発表があった。この中で低温超電導の発表はわずかで、殆どが高温超電導の応用である。なかでも、高温超電導リングを用いる誘導タイプの限流器が多い。ここで発表のあった研究用のリングの大半はヘキスト社によって供給されている。
 誘導タイプの限流器というのは変圧器の二次巻き線に超電導リングを適用したもので、リングであるから巻き数は1回で二次側短絡ということになる。これを電力系統等に入れるわけであるが、変圧器の二次巻き線が超電導でしかも短絡されているため、一次側から見た平常運転時のインピーダンスは僅かで、漏れ磁束によるものと、一次巻き線の抵抗および超電導リングの交流損失によって決まる値となる。このため、限流器を回路中に入れたことによる影響を小さくすることができる。事故時には大電流が流れようとするが、超電導リングがクエンチして抵抗を発生し、事故電流を抑えにかかる。これに加えてリングによって遮蔽されている鉄芯にクエンチにより磁束が鎖交するようになり、一次側から見たインピーダンスは急増して事故電流は抑制される。
 このとき超電導リングのクエンチと限流器の発生抵抗が限流効果を支配することになるわけであるが、超電導リングの臨界電流は、一次巻き線に流れる平常時の電流の一次と二次の巻き数比倍の大きさ以上になっている必要があり、臨界電流と臨界電流密度の両方の高いものが要求される。特に電力系統に入れようとすると、平常時の大電流に対応する電流を流せる、大きなリングが必要になる。
 ISS'94の招待講演でベドノルツが高温超電導の最初の実用機器の候補の一つとして、ABB社(スイス)が開発中の誘導タイプの限流器を紹介した。これは100kW級の容量の限流器でBi2212のリングを用いている。東電と東芝が開発中のクエンチ抵抗を利用した低温超電導限流器の容量が10MW級(6kV,2kA)であるので、高温超電導限流器の電流と電圧があと一桁ずつ増加すれば、少なくとも容量では肩を並べるようになるところまできていることになる。電流の容量はリングの臨界電流の大きさできまるので、これを10倍にするのはそれほど難しいことではない。しかし、高速応答、高限流抵抗などの限流特性でどこまで低温超電導限流器に迫れるかが課題になろう。

(源流)


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