東京大学工学系研究科応用化学専攻(助手・助教)
鉄系超伝導体新物質探索
新しい高温超伝導体として基礎・応用両面から注目されている鉄系超伝導体について、新物質探索を中心として研究を行っている。鉄系超伝導体の化学的特徴に着目した系統的な物質探索を行い、ペロブスカイトブロック層を有する系で多数の化合物を発見したほか、最近ではAsチェーン層を有する新しい超伝導体CaFeAs2を発見している。
新規層状複合アニオン化合物の探索と機能性開拓
酸硫化物・酸リン化物など複数のアニオンを有する化合物は、ある元素の組み合わせにおいて、他には見られない独特の層状構造を形成することが可能である。これらの化合物は超伝導や熱電特性、室温での励起子発光など様々な物性発現の舞台となることが徐々に明らかになってきているが、現在でも系統的な物質探索が行われているとは言い難い。そこでこれらの系について、高い特性が期待される新規化合物を設計し、合成を試みている。例えば過去に発見したスカンジウム酸硫化物に着目し、発光特性及び透明導電体としての可能性を探っている。この他にも層状複合アニオン化合物の持つ特異性に着目し、本系における新たな機能性開拓を目指している。
高捕捉磁場RE123溶融凝固バルクの開発
RE123超伝導体は90 Kを超える超伝導転移温度を持ち、他の高温超伝導体に比べ磁場中での臨界電流密度が高いという優れた特長を持っている。このRE123を用いた溶融凝固バルクは結晶方位の揃った擬似単結晶的な組織を持ち、磁気分離やドラッグデリバリーシステムなどへの応用が検討されている。一方で、結晶方位と成長方向に依存した結晶配向性や微量添加物の効果などは、完全には明らかにされてはいない。そこで、より小型で高い捕捉磁場を有する溶融凝固バルクを開発するため、結晶組織の改善、希薄ドーピングによるピンニングセンターの導入など結晶化学的・物理的な様々な観点からバルクとしての特性向上を目指している。
単結晶シンチレータ材料の欠陥制御による特性向上
既存の単結晶シンチレータにおける発光効率の決定因子に着目し、化学的な手法による特性の改善を目指している。酸化物シンチレータは扱いが容易で大型単結晶が容易に得られることから今後とも応用の主流を占めると考えられるが、ハライド系シンチレータでは理論限界に近い発光量が報告されている一方で、酸化物シンチレータでは理論限界の数十%程度の低い発光量しか得られていない。これは酸化物中では励起エネルギーの発光中心による捕獲能力が低く、相対的に点欠陥などによる発光の遅延や消光効果が強いためと考えられる。そこで特にガーネット系酸化物シンチレータを中心に、結晶中の点欠陥と特性との関連を明らかにし、その制御指針を確立することにより特性の向上を試みている。特にLuAG:Ceシンチレータにおいては、元素置換により発光量が数十%向上することを見出している。新たな欠陥制御法の開発により更なる特性の向上も可能と考えている。
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