SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 7, No. 1, Feb. 1998.

1. 単結晶引上げ用高温超電導マグネットの開発に着手
− 東芝、住友電工、信越半導体 −


 東芝、住友電工、及び信越半導体は、三社共同で工技院の省エネ補助金の交付を受け、半導体シリコン単結晶引き上げ用高温超電導マグネットの開発をすることになったと発表した。発表によると、3年間で,冷凍機で伝導冷却される使い勝手の良い高温超電導マグネットを開発する計画。冷凍機効率の向上により省エネルギー運転が図れ、ランニングコストは現行マグネットの約3分の1で済むという。

 シリコン単結晶引上げ装置は、LSIなどの半導体デバイスを製造するためのシリコンウエハの材料となるシリコン単結晶を溶融ルツボから引き上げるものである。溶融シリコンに静磁場をかけると、導電体である溶融半導体の熱対流が抑制され、高品質の大口径単結晶を引き上げる事が出来る。この引上げ方法は、MCZ法(Magnetic Field Applied Czochralski Method)と呼ばれている。超電導マグネットの強磁場印加で顕著な効果が得られることを見出した信越半導体が、世界に先駆けて超電導マグネットによるMCZ法を実用化した。その後、液体ヘリウムを使用した超電導マグネットが8インチ単結晶引上げ装置に急速に普及し始めている。熱対流の影響は単結晶サイズが大口径化するほど顕著であるため、将来導入が進む大口径12インチ単結晶引き上げ装置には、超電導マグネットが必須とされている。この開発により単結晶引上げ用の高温超電導マグネットの製造技術が開発され製品化されると、西暦2005年に1000台を越えると予測されている単結晶引き上げ装置に、かなりの台数の高温超電導マグネットが導入されることが期待される。

 超電導マグネットの設計、製造を担当する東芝は、単結晶引上げ用超電導マグネットをいち早く製品化し、トップシェアを誇っている。現在の製品には、超電導コイルを液体ヘリウム中に置く浸漬方式を採用している。一方、極低温冷凍機からの伝導冷却により金属系の超電導コイルを液体ヘリウム温度まで冷やす、冷凍機直冷式の超電導マグネットの開発、製品化も東芝が世界で初めて。冷凍機直冷方式を、大型のマグネットにも適用する方向で技術開発が進められている。本開発が成功すると、単結晶引上げ装置以外にも、MRIや磁気浮上式鉄道への適用も可能となるほか、鉄鋼などの産業分野にも超電導マグネットが新たに導入されることが期待できる。高温超電導線材の長尺化と高強度化を担当する住友電工は、これまで100 m級の長尺線材の試作に成功し、臨界電流密度2万A/cm2以上を達成している。また、マグネットでは、常温ボア50 mmの空間に、酸化物系では世界最高磁界の7 Tを発生する伝導冷却型の高温超電導マグネットを開発したことは、本誌(Vol.6, No.5)がスクープしたとおりで、高温超電導開発の歴史に残る輝かしい成果といえる。大型で高電流密度のマグネットを製造するため、長尺、高電流密度を有し、強度の高い高温超電導線材を開発することになっている。

 本開発の責任者である東芝重電技術研究所の前田秀明部長は、「高温超電導線材の技術が進み、マグネットに適用できるフェーズにきている。大型の超電導マグネットを世界に先駆けて開発し、高温超電導マグネットを広く普及させるところまで持っていきたい。」と抱負を話している。また、住友電工基盤技術研究所の佐藤謙一部長は、「この開発を通じて、高温超電導線材が実際の産業用超電導マグネットにも使えることを実証して、省エネによるCO2排出削減や地球環境改善に高温超電導が寄与することを広く認識してもらい、高温超電導による新しい市場を開発したい。」と語っている。

 本開発は、国際超電導産業研究センター・超電導工学研究所の田中昭二所長に指導を受けて始まった。田中所長は、「超電導線材と超電導マグネット、それに半導体単結晶の、それぞれのトップメーカー3 社の共同開発により、最短の期間で単結晶引上げ用の高温超電導マグネットの製造技術を開発したい。半導体単結晶引き上げ装置の省エネ化を目標に高温超電導マグネット技術を開発し、世界に大きなインパクトを与えたい。半導体製造プロセスの次は、鉄鋼プロセス、化学プロセス等への応用を考えたい。」と話している。

(幸)