SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 17

新刊紹介:「超伝導技術とその応用」

丸善(株)イステックジャーナル編集委員会編 定価8,755 円(全407ページ)
 高温超伝導および低温超伝導のメカニズムからその応用に至るまでの材料の問題を含む全体像を知りたい人にとって、本書は世界唯一の最新情報を与える。レオナルドダヴィンチは科学から芸術までのあらゆる天才であったし、ファインマンは高エネルギ−物理から分子生物学までの実験研究を行ない、固体物理分野で大きな理論的業績を挙げた。高温超伝導を中心に超伝導における1から10までの全てを理解したいと望む人には、残念ながら、これまでこの種のきちんとした本がなかった。本書は国際超伝導産業技術研究センタ−が発行するジャーナルのシリ−ズを各著者にアップデートしてもらうことで、その夢をかなえた。最新の情報を揃えた文句無しの好書の出版といえる(1996年11月)。インデックスもあり超伝導の辞書としても使えよう。
 物質の整理から電子構造、メカニズム研究の現状、磁場の下での現象論、磁束のピン止めとクリ−プ、臨界電流特性、金属を含む材料開発の現状、電力やエネルギー変換への超伝導技術の応用の現状、輸送システムとして開発中のマグレブを始め、船や水陸両用列車、スペースプレーン打ち上げのためのランチャ−、宇宙基地での応用の夢の設計、航空機への応用の可能性の検討、医療応用としての MRI やSQUID、大型加速器から小型化された SOR、製鉄の鋳造プロセスへのリニア誘導の試み、磁気分離への応用事例、超伝導磁石用パワーリードの応用による高温超伝導体の実用化例、エレクトロニクス応用へ向けての多種類のデバイス開発への努力の現状、など、全て一線の開発担当者の手で書かれている。特に応用は21世紀の科学技術の夢にあふれている。
 電子構造からメカニズムの部分は、専門研究者により分担執筆されているために、著者によりニュアンスが異なっており、パッチワーク的な観が否めないが、それが現在のメカニズム解明の努力の実情でもあることを知ることができるであろう。また、現象論の部分もやや偏った記述という見方もできなくはない。しかしながら、もしも、この本が翻訳されたとしたら、恐らく世界で超伝導関連の本としてはベストセラーになることは間違いない。

(書評子 tuna2fit)


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