SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 15

新刊紹介"Coherence in High Temperature Superconductors"

Eds. Guy Deutscher and Alex Revcolevschi, World Scientific Publishers, Singapore (1996)
「高温超伝導のコヒ−レンス」ISBN: 981-02-2650-0  超伝導特性において高温超伝導が従来の金属系超伝導と比較して最も異なる点はコヒ−レンスが成立しにくい点にある。すなわち、超伝導が部分的に破れやすいということであり、実用上最も重要な点である。毛利元就は子供達に3本の矢を持たせ、1本の矢は折れやすいが、束ねた矢は強いとして自分の亡き後、子供達の協力関係(コヒーレンス)が肝要であることをさとした。高温超伝導体中では一対ごとのクーパー対の結合は強いが、対同士の協力関係が従来超伝導に比較して弱い。このことが、コヒ−レンスの成立を難しくし、超伝導特性に脆さを与える。 本書は高温超伝導体においてコヒ−レンスがなぜ成立しにくいのか、すなわち、なぜコヒ−レンス長が短いのか、特に層状構造のc-軸方向に磁場を印加するとなぜコヒ−レント状態が壊され易いのか、実験的にそれはどのように観測されるのか、といった問題を大学院生を主たる対象として、教科書的に現在までの理解を示そうとしたもので、各々の章がその背景を詳しく説明しようとしている点で高温超伝導では初めての本といえるであろう。
 シンポジウムを基本に本を構成しているために、その章だてにやや無理が感じられるが、コヒ−レンスの基礎を解説している Deutcher, Kitazawa の章、異方性制御とコヒ−レンスについての Kishio の章、位相観測とコヒーレンスを述べた Iguchiの章、交流応答をまとめた Maeda の章、ジョセフソンプラズマを紹介するTachiki の章、トンネルと近接効果を解説する Tanaka, Hasegawa の章、ボルテックスダイナミックスをクリ−ンミットとの関連で解説する Golosovsky らの章、電子線ホログラフィ−によるボルテックスの直接観測を解説した Tonomura の章など、初歩から親切に書かれているように思われる。ピンニングやクリープに関してはまとまりが必ずしも良いとは言えないが、それぞれの立場から主張をはっきりさせようとしている。超伝導特性を基本から理解しようとする者にとっては、良い参考書になるであろう。本書は発展途上国の研究者に NEDO の好意で約200冊が寄贈送付されたが、日本にはあまり届いていないと思われる。

(飯山)


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