SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 1

新超伝導体! 〜 非層状のはしご型銅酸化物で

 青山学院大学の秋光純教授、上原政智 (博士課程3年)氏、永田貴志(修士課程1年)氏らは東京大学物性研究所毛利信男教授、高橋博樹(現日大文理学部)氏らおよびNTT基礎研究所木下恭一氏らと共同で、 はしご型化合物 (Sr,Ca)14Cu24O41 で、世界で初めて超伝導化に成功したと発表した(現在、J. Phys. Soc. Jpn に投稿中)。
 はしご型格子とは図1に示すように、2本の鎖がはしご状に並んだ構造をしており、ちょうど1次元と2次元を結ぶ中間的な構造である。この構造に最初に注目したのは京大化研の高野幹夫教授、広井善二氏らで、彼らは2本及び3本足をもつはしご型化合物SrCu2O3, Sr2Cu3O5を高圧下で合成した。
 これに刺激されて、Daggott、Riceら多くの理論家がこの構造の物理的特性を論じた。それによると、2本足のはしご(two-leg ladder)の基底状態は一重項状態(spin singlet state)であり、もしこれにキャリアを注入できれば超伝導の可能性があると指摘した。これに対して広井、高野はLaCuO2.5というはしご型構造を持つ新物質を高圧下で合成し、そのLaサイトにSrを置換することによって金属化に成功した。しかし、残念ながら超伝導化には至らなかった。このためはしご型格子は超伝導にはならないのではないかという悲観的な空気が一時は流れていた。
 一方、はしご型格子を持つ構造として、(Sr,Ca)14Cu24O41という物質が知られていた。この物質は2本足のはしご型格子と1次元のチェーンが層状に積層しており、かつ最初からホールがドープされている(Cu2.25+) 珍しい物質である。この系の超伝導化は多くのグループによって試みられた。特に東北大学工学部の小池グループによるCa 置換の試み、青学大グループによるCo 置換の試み等がその例である。
 今回の試みの基本的な点は 1) 常圧下ではこれ以上置換できないとされていたSr に対するCa 置換を酸素HIP下で行い、Sr0.4Ca13.6Cu24O41までCaの置換量を増やすことに成功したこと。2) これに高圧をかけ超伝導が出現した。興味深い点は、超伝導はある狭い圧力下(3 GPa〜4.5 GPa)でのみ出現したことである。(図2参照)。現在のところTc=12Kであるが、理論の予言によるとはしご格子ではもう少し高いTcが期待されており今後の発展が待たれる。
秋光教授談 「この超伝導が本物かどうかですが「加圧、減圧」に対してreversibleであり、又異なる試料に対しても超伝導は必ず出現するので本物であると考えています。 この超伝導の"売り"は勿論CuO2面以外で超伝導が出現したということですが、 特にspin gapと超伝導の関係に興味があります。今後早急にやるべきことは 1) 常圧下で超伝導にする試みを行うこと。 2) Tcをあげること(現在の試料はladderがbucklingしており、かつ、 オーバードープ状態である可能性がある)。 3) 単結晶での実験。の3点です。」
 はしご型構造は2次元の層状化合物に比較して理論的により厳密な解析ができるため、高温超伝導のモデル物質としても興味深いもので、今後世界各国で追試がなされることは必至と思われる。 

図1

図2

(杜甫)


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