SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 1

超電導マグネットの高磁界発生記録を更新 〜 金属系、酸化物系コイル複合方式で22.8T

  超電導マグネットの発生磁場で22.8Tの世界記録が生まれた。従来の記録は平成6年10月に金材研で達成された21.8T (金属系20.9T+酸化物系0.9T)であったが、1年4か月ぶりに同研究所で1T更新された。成功したのは、金属材料技術研究所、日立製作所、日立電線の共同研究グループ。同グループは、本誌、Vol. 4, No. 6で紹介されたように、超強磁場用のBi2212系新線材を既に開発しているが、線材自身があまりにも大きい電流容量を持つため、電磁力や接続部の発熱などの問題が生じ、コイル形状にしたときに線材本来の持つ高特性をなかなか引き出すことができていなかった。
 今回のコイルについて製作を担当した日立製作所日立研の岡田道哉主任研究員は「コイルの構造を従来のシングルパンケーキ巻きからダブルパンケーキ巻きへと変更するとともに、接続抵抗を1/100に低減した。さらに、含浸する樹脂を場所によって最適な材質にするなどの工夫をすることで、500A の大電流を安定に通電できるようにした。発熱を抑えることができた分、補強構造の工夫が容易になり、機械強度も20Tの磁場で予想される電磁力に十分耐えられる構造をもたせることができた」という。
 製作したコイルはダブルパンケーキコイルを4個積層したもので、外径49mm 、高さ55mm、クリアボア12.5mm(写真)。金属系マグネットによる21Tのバックアップ磁場中での臨界電流値は281A、このときコイル中心で発生磁場1.76Tを記録し、バックアップ磁場と合わせて、約22.8Tの磁場発生に成功した。また、高磁界領域で異常に大きなトレーニング効果も観測されているらしく、そのメカニズムについて検討が始まっているもよう。このコイルは最大60MPa の電磁力に耐え、20Tで5分間の臨界電流での連続通電を行なっても全くクエンチすることもなく、劣化は認められなかったという。
 日立電線、佐藤淳一氏によれば、「このクラスの研究用途向けの小型内層コイルとしては、技術はほぼ完成した。要望があればいつでも提供できる」という。今後は大型のコイル開発が課題となるが、これについても「これまではコイルが小型ということで、W&R法を中心に開発を進めてきたが、大型コイルにはW&Rの方が向いているかもしれない」とコメントしている。
 今回の成果により、超電導マグネットの発生磁場は初めて22Tを超え、1GHz NMRに必要な23.5Tにあと一歩のところまできた。金属材料技術研究所・熊倉浩明グループリーダーは「今回の結果により、ビスマス系高磁界マグネット開発の将来に大変明るい見通しが得られた」としながらも、NMRマグネットについては「我々はまだほんの入り口に到達したにすぎない。最大の問題点は永久電流モードで運転しようとする場合、ビスマス系では低温でもフラックスクリープがかなり大きいことだ。組織が均一で局部的に電流の流れにくいようなところのない理想的な線材でも、NMRに必要な永久電流を達成するには、今回の運転電流の40%程度に落とさなくてはならない。また、コイルの大型化には、長尺線材作製のための材料プロセスの検討の他に、電磁力対策が必須で、シースの合金化など、補強法を真剣に考えないといけない。今後はこのような課題に取り組んでいきたい」と述べている。   

(Clark Kent)


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