SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 18

Quantum Design 社、MPMS システムの低温温度制御大幅改良

 Quantum Design (QD) 社のSQUIDを用いた磁化測定 システムであるMPMS (Magnetic Property Mesurement System)は、素人でも超高精度の磁化測定が容易に行なえるよう随所に工夫があり、大変洗練されたシステムとして知られている。
 同社の最近のプレスリリースによると、これまで不満の強かった低温での温度コントロール方式を根本的に変えるオプションが利用可能となるとのこと。現在のMPMS では、4.2K 以下の温度を実現するために小さな部屋に液体ヘリウムを溜め、これを減圧することにより約2 K程度までの低温を実現している。この方式には、(1) 4.2 K 以下に保てる時間が短い(数時間程度)、(2)部屋を再びヘリウムで満たすのにかなり時間がかかる、(3) 4.2K 以下から4.2K 以上に温度を上昇させるのに、液体ヘリウムを蒸発させなくてはならず、この温度域での温度コントロールがたいへん難しい、等の問題が報告されてきた。
 今回のオプションでは、これら全ての問題を解決するため、ヘリウム溜め方式をやめ連続フロー方式を採用している。現有のシステムにこのアップグレードを行うには、ヘリウムガス流量コントローラのインピーダンスの追加とサンプルチューブの交換が必要なためフィールドでは行えず、引き取っての改良になるとのこと。なお、アップグレード料は 250 万円ぐらいを予定している。特に低温域での磁化測定を行う研究室にとっては大変重要なオプションと言える.テスト結果では、室温から約2Kへの冷却に30分足らずしかかかっていない(図1)。また4.2K 以下から4.2K 以上への昇温もすばやく、オーバーシュートも見られていない(図2)。最低温度の2.0Kを約 2 日も保つことができるとのこと。欲を言えば最低温度を1.5K程度まで下げてもらいたかった。
MPMSもはじめから現在のような使い勝手であったわけではなく、現在のシステムの完成度は多くのユーザーからの意見を常に製品に反映させてきた賜物といえる。しかし、昨年発表された試料振動オプションや今回の低温温度制御の改良は,新しい競争相手であるConductus 社のシステムを視野に入れたものであると言える。後発のConductus 社システムには、これらの機能が始めから準備されている。これでハード的に2 社はほぼ同じレベルに達したと言えよう。一方ソフトウエアの完成度はQD 社の方がConductus 社に比べずっと高いのが現状である。1ユーザーとしては、高い技術力を持った複数の会社が互いに切磋琢磨することによりさらに良いSQUID システムが完成されていくことは、大変喜ばしいことである。なおQD 社は温度関係の更なる改良も予定しており、お楽しみはまだまだ続くとのこと。 

図1 新MPMSによる降温特性

図2 新MPMSによる温度制御特性

(Endeavour)


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