SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 1

高温超電導マグネット本格化へ

 いよいよ高温超電導材料の性能が高まり、実用製品の市販開始が話題となってきた。米国ではエレクトロニクス用受動素子の試験開発が盛んだが、我が国ではむしろパワー応用が先行している。これは米国の研究が軍事優先であったことの名残りと、我が国における電線、鉄鋼などの材料メーカーの研究開発における善戦ぶりがその差を生み出してきているとみることができそうである。本稿では日本に関しては本誌に述べられて来なかった新しい動きを、また、海外については最近の目立った動向を記す。
パワー応用では、本年中に高温超電導線材を用いた、到達磁場も数テスラを超すマグネットが製品化されるといわれている。詳細は発表されていないので不明であるが、ボア径なども10cm程度の実用レベルに達し、簡便な冷凍機直冷型でメンテナンス・フリーで運転されるようだ。このようなマグネットが実際に目の前に出現すると、いよいよ高温超電導実用化も本格化してきたという印象を受ける。
こうなると、いよいよコストパフォーマンスが気になるところであるが、現在は高温超電導線材を市販しているメーカーがないので正確には把握することが難しい。しかし、日米ともにメートル当たり現在1〜10万円といわれている。これでマグネットを作ると、4 kmの線材を使う場合、最低でも4,000万円という勘定だ。線材の臨界電流は長尺でも100Aを越えるものができており(200ー300A のものもあるといわれる)、本年中には10テスラ級マグネットが実際に売り出されるという噂の信頼性を裏付けている。昨年の年間生産量が大手でも数10 km(もちろん試験機器製作用)という段階から考えれば、今後数分の1のコストダウンは容易と考えられよう。すなわち、従来の Nb3Sn 超電導磁石並の価格に高温超電導マグネットが到達するのは時間の問題といえる。
すでに、住友重機械工業、東芝、三菱電機、住友電工などは、高温超電導パワーリードを用いた冷凍機直冷型マグネットをここ短期間の間に全体で20台以上を製作し、半数がすでに稼働を始めている。いずれもユーザーは研究所、大学などの研究機関であるが、そのほとんどはこれまでの低温物理学を中心とするヘリウムの扱いになれたユーザーではなく、資源・公害に関連した研究や、炎・溶融金属を扱う研究、化学プロセスや動植物飼育栽培を扱う研究、など、従来とは非常に異なった幅の広いユーザー層に超電導磁石が浸透し始めていることが特色だ。ヘリウムの足枷は大きかったという証拠であろう。実際のところ、いざ、磁場をかけようとしても、さてヘリウムを汲んでから、というのと、直ちに磁場を上げ始められるのとではユーザーの使い勝手が全く異なる。
そのような意味で当分高温超電導磁石は(冷凍機直冷型のパワーリードのみに高温超電導体を用いる低温超電導磁石を含めて)、従来は振り向こうとしなかったユーザー層を掘り起こしていくことが考えられよう。これらのユーザーは低温を全く意識せずに、マグネットを使用する。さらに、20K程度の冷凍では冷凍能力が現在の低温超電導線材を用いてのマグネットよりも冷凍能力が一桁向上するので、小型冷凍機でかなり大容量(数10cm四方)の空間に磁場を発生することも可能である。そうなると、産業応用や医療応用にもいよいよ準備ができることになろう。  超電導のこれまでの最大の需要がマグネットであったことから考えて、本年が高温超電導線材マグネットの本格的応用の実用化元年になるとされることは、高温超電導の歴史に大きなマイルストーンを記すものといえるであろう。
 一方、米国では高温超電導線材の開発ではアメリカン・スーパーコンダクター社(ASC)と IGC 社とが突出している。両社線材の関連する試験製品群でみると以下の展開が目立つ。まず、海軍研究所の 昨年9月 4.2 K で 167 馬力(液体ネオン28Kで112 馬力)を達成した。リライアンス・エレクトリック社がDOE のSPI プロジェクトで作成した冷凍機直冷型シンクロナス・モーター(回転子に高温超電導コイル)は 20 K で 125 馬力を達成。今後第2フェーズで 1000 馬力、2000 年までにコストメリットの期待される 5000 馬力を目標とする。出力は磁場の2乗に比例するので、磁場として数倍の向上が目標。
 欧州では本年後半に ASC 社の線材で作られた 630 kVA 変圧器がアセア・ブラウン・ボベリ社によりジュネーブの SIGI 電力会社の系統に組み込まれ、実系統での試験が始まる予定。商用には10 MVA の規模が必要とされる。米国 Waukesha Electric Systems 社も1年後に 1 MVA の単相変圧器の電力会社への試験納入を予定している。これは 20 K 冷凍器直冷型で表面コート型高温超電導線材を用いるとされる。
 電力系統の異常時を保護する限流器については、すでに Rockheed Martin 社が Southern California Edison 電力の系統に組み込んで初期試験を開始している(2400 V)。

(SSC )


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