SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 23

量子化磁束の侵入に新たなメカニズム:バブル侵入 〜ライデン大学、カマリング オンネス研究所

 従来型の第二種超伝導体であるNbSe2単結晶において、新たな量子化磁束の侵入の形態が観察された。今までは、ビーンモデルに代表されるように、単一の量子化磁束が試料の中心に向かって勾配をもって侵入するという描像が支持されていた。今回のM.Marchevskyら[Physical Review Letters 75, 2400 (1995)]の報告では、新たに量子化磁束の集団が「液滴(ドロップレット)」を形成し、試料に侵入する様子がとらえられた。
 温度を下げ磁束の侵入磁場Hpより小さい磁場Haを印加すると、量子化磁束は試料の端にある幅で一定の濃度で分布するベルトを形成する。磁場Haを上げていき、Hpに達したとき、つまりHa=Hpで磁束は液滴(ドロップレット)のような形状である部分にのみ侵入する。この現象は、試料の形状に起因するポテンシャルバリアによるものである。試料の断面の形状によって磁束の侵入のしやすさが変わる「形状効果」は、ピン止め力の弱い物質において顕著に現れる。試料の断面が長方形だと磁束の侵入に対して「形状バリア」が生ずる。2H-NbSe2 は層状物質で、ピン止め力が弱いことで知られる。
この観察は1.2Kにおいて強磁性体の微粒子を振りかけ、その後その様子を観察するデコレーション法(ビッター法)によって行われた。図1に示したのが、外部磁場3mT(Ha < Hp)での実験である。写真上部から磁束が侵入し、試料の端に沿って量子化磁束のベルトを形成しているのが見える。
 印加磁場を上げていくと、図2に示したようになる。
 図2は、外部磁場5mT(Ha ≧ Hp)の実験である。侵入磁場Hpは試料の形状からおよそ0.4mTと見積られた。この実験で、磁束のドロップレットはベルトから発生し、試料の中央に引き伸ばされていることがわかる。ドロップレット形成のシナリオは次のように考えられている。まず、エッジに沿ったいくつかの点でHaがHpを上回り、量子化磁束が中心に向かって侵入しだす。磁束が動いていることがドロップレット形成の鍵である。A.E.Koshelevらによれば、動いている量子化磁束は、その駆動力がある臨界値を越えると、自発的に完全な格子に再結晶する。
 さらに整列した量子化磁束は格子を形成する力よりずっと小さい駆動力であっても密着して動き続けることができ、新しく磁束が試料の端から侵入し続けるかぎり、整列した領域は拡大し、ドロップレットを形成する。ドロップレットが大きくなると、完全な磁束格子の中に格子欠陥ができて、それが蓄積することによって成長は止まる。動いている格子に現れる欠陥、例えば転位のようなものは、どれでも、磁束格子の動きを妨げる役割を果たすと推定している。
 最後に、外部磁場を7.5mTに上げて実験している。この磁場のもとでは、磁束は試料全体に侵入する。 試料内の磁場は印加磁場とほぼ同じで、試料端から中央に向かっての磁場の勾配は見られなかった。  この報告は従来型の超伝導体のものであるが、ピン止め力の弱いビスマス系などの高温超伝導体も、こうした侵入形態を取っている可能性がある。量子化磁束侵入の形態を考えるとき、単一磁束だけでなく集団的な動きや、試料の形状を考慮する必要があることを著者らは主張している。

図1

図2

(Bach)


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