SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 14

山梨リニア実験線用第一編成車両見学記

山梨リニア実験線で使用する試験車両の第一編成車両が7月中旬に完成、山梨県都留市の同実験線車両基地に搬入された。このほど未踏科学技術協会による日米超伝導ワークショップの一環として行われた見学会に参加することができた。
MLX01形と名付けられたこの車両は、3両の車体が4つの台車に跨がる連接構造を有し、先頭形状は空力特性を考慮して設計されたダブルカスプ型(鳥のくちばし型/甲府方MLX01-1)、およびエアロウェッジ型(くさび型/東京方MLX01-2)と呼ばれるもので、絵に描いたようななめらかな曲面が美しい。リニアの列車はすべて地上コイルの電力制御によって走行するため、車両最前部にいわゆる運転席はなく、窓もない。最前部にはCCDカメラが取付けられており、入換時等はこれによって乗務員室から前方確認を行う。軽量かつ高い剛性、および空気抵抗の低減が追求された車体は屋根から床下まで真ん丸で、小さな側面窓が並ぶ様など、さながら航空機を思わせる。
 超伝導磁石は各台車の両側面部に配置されており、小型、軽量の冷凍機が左右の磁石おのおのに取付けられている。また山梨実験線では地上コイルへの電力供給設備として、従来の宮崎実験線のサイクロコンバーター方式に代えて、新たに大容量GTO素子などを使用したインバーター方式を採用することによって高い周波数の電力が利用可能になったため、コイルが短尺化(1台車あたりの磁極ピッチ:宮崎の2.1m×3極→1.35m×4極)されており、機械的剛性が高められている。そしてこの他にも、コイル固定金具などの各部品の構造や材質等についても改良が加えられており、冷凍機の性能も向上した結果、耐衝撃性、耐クエンチ性の大幅な向上が達成されている。定格運転時の磁場中心における磁束密度は約4.5Tで、地上の浮上コイル表面付近では1T程度の大きさとなる。客室内への磁場の侵入は天井を除く車体内側の全周に配置されたシールド材によってほぼ遮蔽され、客室における磁場強度は床面付近で10ガウス程度のレベルまで抑えられている。このシールド材には現在のところ純鉄が用いられているが、車体軽量化の大きなネックとなっており、将来的に材料開発の余地の残る部分である。
 上方にスライドするプラグドアから車内に入る。客室内は従来の鉄道車両よりも一まわり小ぶりで、通路を挟んで左右各2列の座席が配置されている。天井の高さは十分にあるが、側板が上方で内側に反ってきているのと、窓の大きさや窓まわりの処理のため、ちょうどまさに細身の航空機の客室内のような緊張感がある。客室内のデザインについても構造、寸法、そして重量上の制約があり、特に軽量化には苦労しているようだ。この車両は試作車両ながら機能面での完成度は高く、将来的に大量旅客輸送を行う車両のプロトタイプとして、座席、空調などの接客設備から内装材の一つに至るまで徹底的に吟味されたもので、それらの技術の集大成ということができる。
 同実験線は、将来的に需給の逼迫する東海道新幹線のバイパスとしての、いわゆる「中央新幹線」のモードの決定(リニア方式で実現できるかどうかを見極めること)のための実験線であり、用地買収の遅れのため、当初の計画のうち18.4kmの区間を先行区間として一足先に完成させ、平成9年春から本格的な走行実験に入ることになっている。この先行区間については、トンネルは既に昨年すべて貫通、その他の路盤部分の工事もほぼ終了し、現在は一部で地上コイルの敷設が始まっている。また実験線が中央自動車道(河口湖線)と交差する地点に、実験線の中枢機能を有する実験センターと、地上コイルに電力を供給する電力変換設備が建設され、それらの主要機器も順次搬入されている。
 なお余談になるが、7月の車両搬入に際しては、都留市内国道139号線禾生(かせい)駅前交差点の右折にあたり、車両が長すぎて(:先頭車両は28mにもおよぶ)狭い交差点を通過できないため、交差点の角に位置する禾生第一小学校の校門を一旦撤去して、校庭の中を経由するという方法が採られたとのこと。校門は作業終了後に新たに設置されたが、これは今後の第二編成以降の搬入に備えて可搬式のものになっているという。

実験車両概観

(なべりん)


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