SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 1

Bi-2212結晶でトンネル型ジョセフソン接合特性観察 〜 NTT

 NTT境界領域研究所は8月26日金沢市で開かれた応用物理学会で、Bi-2212単結晶を用いて高温超伝導体では初めてトンネル型(SIS)のジョセフソン接合特性(写真)を観察したと発表した。これまで、SIS型の接合を形成する試みは、日本を中心として、高温超伝導体発見以来続けられてきたが、いまだにジョセフソン電流とエネルギーギャップ構造を反映した準粒子電流の両方が観察されたことはなかった。高温超伝導体でSIS接合の形成が可能になれば、スイッチング素子などのデジタル応用や、ミキサやSQUIDなどの性能向上が図れ、高温超伝導体のエレクトロニクス応用展開が加速するものと期待される。
 SIS接合には厚さ数nmの絶縁層が必要である。これを人為的に形成しようと試が多くなされたが、薄膜の表面平坦性の欠如、界面の劣化、ピンホール等の問題によりSIS型の特性は得られなかった。そのため、コヒーレンス長が極めて短い点をあげて、高温超伝導体におけるSIS型ジョセフソン接合を不可能視する向きもあった。今回のNTTからの発表は、層状構造を有し超伝導層間がジョセフソン結合しているBi-2212系のいわゆるイントリンシックジョセフソン接合で上記の特性を観察したというものである。
 イントリンシックジョセフソン接合はこれまでドイツMeissner研究所のKleinerらにより精力的に研究されてきた。しかし、I-V特性にnormal抵抗の部分が見られないこと、観察された電圧ステップの数が接合のスタック数よりもはるかに少ない点などの問題もあり、超伝導層間がSIS接合になるという点に疑問を投げかける研究者も少なくなかった。今回の田辺圭一主幹研究員(現在ISTEC出向中)の発表によれば、接合面積を小さくし、接合のスタック数を少なくすることにより今回の結果を得たという。Bi-2212系は層状構造を有していることから非平衡超伝導効果が著しく、接合のスタック数が多くなるとその効果が一層加速され、接合数が100以上では超伝導エネルギーギャップが抑圧されてしまい、いわゆるトンネル特性は観察されないという。
 今回報告されたBi-2212の接合サイズは20μm角、厚さ60nm(40スタック)でイオンミリングにより加工されたもので、観察された電圧ステップも40個とスタック数に一致している。報告によれば、Bi-2212イントリンシックジョセフソン接合のトンネル特性の特徴は、(1) 非平衡超伝導効果が著しいこと、(2) エネルギーギャップ2Δが35meV以上あること、(3) Ic RN積が小さいこと、それと(4)サブギャップコンダクタンスが大きいこと、などである。従来観察されていた電圧ステップは2Δの半分であり、Ic RN積が小さいためにI-V特性のサブギャップ部分にスイッチしたのを観察していたことになる。KleinerらのI-V特性をはじめ、従来の特性は電圧ステップの形が原点に向かっており、このことを裏付けている。
 また、このことは同時にIc RN積が小さいことがイントリンシック接合の普遍的な特徴であることも示していることになる。さらに、サブギャップコンダクタンスが小さい独特の特性は、普通のs波超伝導では説明が難しく、超伝導ギャップ関数にノードがあるような超伝導の対称性を考えざるを得ないという。実際、サブギャップ部分のdI/dVのデータはV2に比例し、d波超伝導体のSIS接合特性の場合に一致するという。
 続いて発表したNTTの鈴木実主幹研究員の報告では、d波超伝導体のSIS接合に非平衡超伝導効果を考慮すると得られたイントリンシックジョセフソン接合のトンネル特性全体を良く説明できるという。
 今回得られた結果は、高温超伝導のエレクトロニクス応用面で波及効果が大きいことは勿論、高温超伝導発現機構の面でも非常に示唆的である。今後、実験データの詳細な検討を経てより深い理解が期待されるところである。一方、応用面を考えると、単結晶を利用してはまだ応用の幅がせまく、薄膜でのトンネル接合特性実現が望まれるところである。そのためには、真の意味で単結晶薄膜が必要となり、高温超伝導薄膜成長技術の真価が問われることになる。

観測したトンネル型ジョセフソン接合の電流・電圧特性

(湖)


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