SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 16

STMで高温超伝導体磁束量子の観察に成功〜 ジュネーブ大

磁束量子を観察する手段として様々な方法があるが、そのほとんどは本質的には磁場の測定によるものである。しかし、磁束量子のコア近傍では超伝導のオーダーパラメータが変化しているので、その変化をトンネル分光法で検知できれば磁束量子の観察が可能である。
今まで、ビッター法や電子線ホログラフィーなど、磁場を測定する手段では高温超伝導体の磁束量子は観察されている。しかし、短いコヒーレンス長や超伝導体表面の不安定性のためにSTMによる測定は低温超伝導体でしか成功していなかった。
 本年7月、ジュネーブ大のMaggio-Aprile、 Oystein Fischer らはYBCO の磁束量子のSTMによる観察に初めて成功した。試料は単結晶で印加磁場は6Tと強磁場である。得られた磁束量子の像は楕円形であり、磁束格子を組んでいるものの対称性の低い斜方形である。なお弱磁場下ではアブリコソフ格子に近い格子を組んでいたとのことである。この実験によって磁場の強さに依存する磁束格子の形状が観察できたというのは興味深い。従来の磁場測定の方法では、磁場侵入長が長いため強磁場での磁束格子の観察は困難だと思われる。この実験と並行してトンネル分光も行われたが、得られたスペクトルはS波的なものともd波的なものとも違い、むしろ拡張S波に近いものと解釈されている。しかし、トンネルスペクトルのゼロバイアスコンダクタンスが比較的高いことから、理想に近い状況とは言えないおそれがある。一般的にいえることであるが、STMにおける測定において、磁束量子を観察できる条件、あるいは表面のトポグラフを観察できる条件と、トンネルスペクトルの測定できる条件を明確にしていくことが今後の研究に必要だと考えられる。
 ところで、今回の実験は非常に苦労したようで、最初はスパッタ膜を用いていたがうまくいかず、単結晶を用いたらやっと測れた、というのが内輪筋の話である。
 磁束量子の形状とオーダーパラメータの対称性との関連の理論的な研究が最近報告されているので、未だに結論が出ない高温超伝導体のオーダーパラメータの対称性を決める実験手段としてもSTMによる磁束量子の観察は今後盛んになりそうである。

図1 微分コンダクタンスによる磁束格子の像(4.2K、6T)

図2 トンネルスペクトル(4.2K、0T)(a) 生データ(b) フィルタをかけたデータ

(Michelangelo)


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