SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 1

液体窒素温度で実用レベルの0.61 テスラ 達成〜高温超電導コイルで

 米国ASC(American Superconductor Co.) 社のBart Riley 氏らは去る6月19日よりマウイ島で開催された 1995 ISTEC-MRS 国際超電導ワークショップにおいて、ビスマス系線材で作成された超電導コイルで液体窒素温度で 0.61 T の磁場発生の新記録を達成したと発表した。これまでビスマス系線材では、30K 以上でのピン止め力が弱いために、液体窒素冷却での超電導磁石は悲観視されていた。しかし、今回の達成記録は現在実用的に使われている MRI (磁気共鳴断層撮像診断装置)の汎用機の磁場を凌駕するものであり、いよいよ高温超電導磁石の液体窒素温度での応用が現実味を帯びて来た。
 今回の高い磁場の発生については、テープ線材の配向がある程度の分布をもっているために、磁場の影響が必ずしもc軸方向の不可逆磁場が低いことによって致命的とはならないことを示したものと会場の研究者は受け取っているようであった。液体窒素温度では望みがないとされていたビスマス系高温超電導線材に液体窒素温度への応用の動きが始まることは確実と見られる。
 住友電工佐藤謙一超電導応用研究部部長の談話によれば、「すでにこの程度の磁場発生は液体窒素温度においても可能なレベルに達しており、今後はむしろ低温超電導コイルを用いた場合との総合的なコストパフォーマンスの問題になる」段階に入ってきたとみられる。
 ただし,実用製品の開発に向けては、今後、従来の数倍の長さの線材を作らねばならず,コイルも大型化していく必要がある。そのためには温度分布の均一な大型炉も開発が必要とされる。本学会の発表では、ニューヨーク州立大バッファローの David Shaw 教授から、長尺線材熱処理用のドーナツ型大型電気炉の発表もなされており、このような方向の努力が開始されていることが伺われた。このための大型炉は特に均一な温度分布が必要で,炉作成の技術開発が必要となっている。
 いずれにせよ、77 K 超電導磁石が技術的可能性を示したことで、今後、大型高温超電導磁石の開発が活発化する可能性がでてきたものと感じられる。

(SSC)


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