SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 14

超伝導ギャップの対称性 〜 トリクリスタルを用いた実験(ヒューストン大)

 最近、高温超伝導の研究において、超伝導ギャップの対称性を直接測る、つまり複数の超伝導体の位相を干渉させてその干渉パターンから対称性を調べようという実験が試みられている。その際に採られる方法としては、 主に、多重連結構造を持つ超伝導体接合におけるジョセフソン電流の臨界値の磁束量依存性や、半量子化磁束の観察がある。そのような実験の報告はいくつかあるが、現在までの状況をみる限りでは、超伝導ギャップの対称性の議論は収束してはいないであろう。
 さて、超伝導の巨視的量子干渉を利用した実験のうちで、トリクリスタルを用いた実験は以前にIBMのグループによって行われている。この実験では、走査型SQUID顕微鏡による量子化磁束の半分の磁束(この装置は量子化磁束ほどの大きさの空間分解能を持たない)の測定からd-waveが主張されている。
 ヒューストン大 John H. Miller, Jr 教授らのグループはこのIBMのアイデアを借用し、磁束観察の代わりに、接合を流れるジョセフソン電流の臨界値の磁場依存性を調べた。用いられた接合は図のような形をしている。この接合では、d-waveの場合、ゼロ磁場で臨界電流が極小になる仕掛けになっているが、実験結果もそのようになっている。ただし、臨界電流の磁場による干渉パターン全体を見ると、(パラメータの取りかたにもよるだろうが)理論線との一致はよくない。
 ところで、この実験ではもうひとつポイントがある。それは干渉パターンを、接合のサイズを変えて測った結果によれば、接合を大きくすると干渉パターンがs-wave的な形に変化したということである。
これを彼らは、sine-Gordon方程式を用いた解析から、ジョセフソン侵入長より大きいサイズの接合では超伝導ギャップの対称性にかかわらずs-wave的な干渉パターンが出るためとしている。これによると今までにs-waveを主張している実験報告の解釈が覆される可能性がある。
 この大きいサイズの接合の実験でs-wave的な干渉パターンが出るということは、πジャンクションの実験の際に言われた形状効果や予期しない磁束のトラップの影響の恐れを除くことができるかもしれない。しかし、サイズの小さい接合では、短いコヒーレンス長のために、接合界面の不均一性の影響が顕著に現れているため干渉パターンに異常が現れるという可能性も拭い去ることはできない。また、このトリクリスタルの接合は、図からもわかるように、接合ごとにミスフィットの角度が違うので接合界面のバリア障壁の大きさが違っているとも考えられる。
 πジャンクションの実験が提案された当時は、超伝導ギャップの対称性の決定も間近と思われたが、まだ先は遠いようである。しかし、対称性というものは実験によって決めるものである。この分野はまだ日が浅く、改良の余地があるため、実験家の創意工夫の見せどころとなるであろう。ただ一つ気になることはこの種の実験では、日本はアメリカに大きく先を越されていることである。πジャンクションの提案も日本の学術誌に発表されているだけに、日本の研究者の奮起が期待される。

(Evangelist)


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