SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.3, June 1995, Article 8

750MHzNMR用磁石フル生産に

 Super-Com Vol.3 No. 2 (1994.5) に掲載のように、神戸製鋼所は、 同社の関係会社であるジャパンマグネットテクノロジー、マグネックス社と 共同でNMR(核磁気共鳴分析装置)用として、世界最高の磁場強度を持つ超電導マグネットの開発に成功し、 1994年3月米国ペンシルバニア大学にその1号機を納入した。このマグネットは常圧液体ヘリウム温度(絶対温度4.2度)で中心磁場強度17.6テスラを発生することができる。この磁場は、水素原子の共鳴周波数で750 MHzに相当する。
 このマグネットは、その後順調に稼働を続け、NMRマグネットに必要とされる磁場安定度は4Hz /hr 以下、と従来からある低磁場機種にも勝る性能を示し、液体ヘリウム補充間隔も3か月以上と極めて使いやすい。ペンシルバニア大学ではこのマグネットをブルカー社製のDMX750コンソール型分析器と組み合わせ、タンパク質などの高分子化合物の分析に使用しているが、従来使用していた600MHz NMRマグネットと比較して明らかに分解能および感度が増しているという。これらのデータはExperimental NMR Conference などの学会で公表され、注目を集めている。
 神戸製鋼所はこのマグネットの製造販売をジャパンマグネットテクノロジー社に移管しているが、既に国内外から数台の受注があり、フル生産の状態になっているもよう。現在、日米の国立研究機関において減圧ポンプを用いてクライオスタット内温度を約2K まで下げることにより、900MHz相当の磁場を得るプロジェクト、さらに酸化物超電導物質を組み合わせることにより、1000MHz以上を得るプロジェクト、が計画されているが、これらはいずれも5年近くの開発期間を要する大プロジェクトであるばかりでなく、完成したとしてもクライオスタットに付属するポンプを常に作動しなければならない、など一般のNMRユーザーには扱い難いシステムとなっている。現在実用可能な超電導物質を用い、現在と同じ形式のクライオスタットを用いる限り750MHzから800MHzが限界であり、すくなくとも今後10年近くは、一般に用いられるNMRシステムとしては、このクラスが最上位を占めると思われる。


訂正とお詫び
 本誌前号 Vol.4 No.2( 1995.4)7ページ「米国高磁場研究所25T磁石開発を開始」という記事中に 「最近、神戸製鋼とオックスフォードインストルメンツ社が共同で作った17.5 T 磁石を用いる750MHz級が最高」と記しましたが、これは正しくは「神戸製鋼がジャパンマグネットテクノロジー社とマグネックス社との共同開発により製造した磁石」であり、「この磁石の発生磁場は正確には17.6T、米国ペンシルバニア大学に納入し、世界で初めて750MHzで高分子のNMR分析に成功したものである」 ことを誤認していたものです。ここに訂正させていただき、関係者の皆様にお詫び申し上げます。

(SSC)


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