SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.2, Apr.1995, Article 1

通産省超電導材料・素子プロジェクト 〜 7年度以降の計画明らかに

 通産省工業技術院産業科学技術研究開発室(担当研究開発官久留島守広氏)は3月27日、7年間の開発期間を経た同省の超電導材料・超電導素子プロジェクトの平成7- 9 年度の計画概要を報道陣に公表した。公表資料によれば、昭和 63 年度に開始された同プロジェクトは、これまで国際超電導産業技術研究センター傘下の集中型研究所である超電導工学研究所を中心に国研、民間企業の研究を含めて、7 年間で 139 億円の予算を投入し、材料開発・素子要素技術を中心とした開発をしてきた。このほど 7 年目の中間評価を経て、今後、3 年間の目標設定が見直されたもの。平成7年度予算額は前年とほぼ同じ 32 億円で、NEDO を通して支出される。  同省では昭和63年度からの初期3年間を「物質探索・素子要素技術」開発期、平成3年度からの中期4年間を「材料化・素子化技術」開発期、そして今後3年間の第3期を「高特性化・線材化・薄膜化」技術開発期と位置づけたい考えで、中期4年間の主な成果として以下の例を挙げている。
 超電導材料開発では、銅系酸化銅新超電導体(CuBa2Ca3Cu4Oyなどのシリーズで臨界温度最高 117 Kー電総研伊原英雄氏らによる)の発見、タリウム系、水銀系での物質最適化による最高臨界温度への到達、123系大型単結晶(15 mm 角)の作製、酸素量を制御した溶融凝固法による高臨界磁場 Nd 123 系などの開発、が挙げられ、一方、超電導素子開発では誘電体ベースおよび超電導ベーストランジスタにおける能動動作の実現、SNS 型ジョセフソン素子の製作と作動確認などが挙げられている。またこの間、特許出願は 224 件、発表論文は 889 件に達した。
 今後の第3期へ向けての研究方向は、超電導材料分野では、これまで最高の135 K を越す高臨界温度超電導体の開発、液体窒素温度でこれまで以上の磁場を発生できるバルクマグネットの開発、従来の弱結合を解決するビスマス系以外の線材の開発、大型単結晶の開発と加工技術などが挙げられている。超電導素子分野では素子作製技術の高度化に向けて、ジョセフソン接合、半導体/超電導低エネルギー障壁接合、高品位薄膜、高耐圧絶縁層、多層化配線、SNS 集積素子、原子層制御、などの技術開発と当初から目的としていた3 端子トランジスタの実現に向けた性能向上(低作動電圧、超高速作動化)、低消費電力型磁束フロートランジスタの実現、などが挙げられている。また、第 3 期より新たに「ジョセフソン素子ハイブリッドシステム」が新たなテーマとして加わった。このハイブリッドシステムはジョセフソン素子集積回路と半導体回路との長所を組み合わせて、省エネルギー型計算機、あるいは計算機間ネットワークにおけるデータ交換機としての役割を期待するもの。低消費電力で高速作動するジョセフソン素子と高集積化の進んだ半導体回路との長所を活かそうとする計画という。新機能素子協会が運営役を行い電総研と日立、日電、三洋、富士通などが参画する。
 集中型の研究所を有する本プロジェクトは通産省としては超 LSI 研究所、光技術研究所に次ぐものであるが、それらがいずれも5年間で終了、解散したのと比べ、当面 10 年という開発期間は異例のものとなる。これらの終了したプロジェクトは、超 LSI 研究所が「追い付き、追い越せ型」であり、光技術研究所が新規産業の立ち上がり期に企画されたものであったといわれるのに対して、超電導プロジェクトは、新規産業としてはまだ不透明な時期に企画され、立ち上げを自ら行おうとする野心的なものであっただけに、潜伏期が長期を要しているとみることができる。これは海外との技術摩擦を避けるため、通産省プロジェクトとしては歴史的必然の流れとも見ることができるが、今後の試金石として注目される。新規産業として超電導産業を育て上げるには、今後、大型実用技術として、エネルギー応用、あるいは運輸、エレクトロニクスなどへの応用などをプロジェクトとして打ち出していくことが考えられる。
 すでに低温超電導材料を用いた超電導発電機、超電導電力貯蔵、マグレブの国家プロジェクトが進行中であるが、今後ひと回り規模は小さいが高温超電導材料を用いてこれらに相当するプロジェクトとして、超電導磁気浮上フライホイール、高温超電導電力ケーブル、高温超電導バルク磁石磁気浮上運輸システム、高温超電導マイクロ波素子を用いた移動体通信システム用基地局(低消費電力、高チャンネル密度型)などが議論されている。

(PKF)


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