SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.1, Feb.1995, Article 25

書評 Case Studies in Superconducting Magnets; Design and Operational Issues

(Selected Topics in Superconductivity Series) -p.421
岩佐幸和教授(MITフランシス・ビター国立マグネット研究所)
Plenum Press. New York and London, August 1994 ISBN 0-306-44881-5
 超伝導マグネットは超伝導物質の、実用という点での落ち着き先の一つであり、さらにそこから電力・エネルギー分野という大きな展開がスタートする。MRIも浮上式リニアも超伝導マグネットから成り立っているし、その超伝導マグネットは超伝導らしい特性を安定した状態で保持している限り、超伝導マグネットである。
 超伝導マグネットは超伝導線を巻いて作られ、超伝導線はフィラメント状になった超伝導体を芯にした高機能複合材料だという点で銅線を巻き上げて作った鉄芯つき銅巻き線マグネットとは違っている。確かに耐電磁力設計はどちらにとっても重要だが、超伝導の場合、電流密度と磁場の両者が超伝導であるために相乗的に大きくなってくる。伝熱工学的配慮となると、もう伝熱にしても熱伝達にしても過渡的な応答で細かい設計が要求される。そしてその取り扱いには超伝導工学といってもいいような独特なものがある。超伝導材料がフィラメント状になっていることも、それが無酸素銅に埋まっていることにもきちんと超伝導らしい理由が存在するのである。
MITフランシス・ビター国立マグネット研究所(FBNML )のProf. Iwasa(岩佐幸和教授)の「Case Studies In Superconducting Magnets, Design and Operatinal Issues」(Plenum Pub. Co, Aug.1994)は上記のような話題を網羅して実際の技術上の問題点を定義したうえで、全てきちんとした数学的な処理をし、数値を示してその意義の大きさを体得させてくれる。これが題名のケース・スタディの由来でもある。勿論物理的な意味、超伝導技術上の意味は問題 ごとの章の始めや問題の中に提示されている。
 そしてところどころで「Time, time, what is time? /Swiss manufacture it./French honard it./Italians squander it./Americans say it is money./Hindus say it does not exist...O'Hara」なんて楽しい埋め草にいたるところで遭遇できる。ちなみにここで紹介した埋め草はNb3Snのクエンチの余兆として機械的な不安定性に伴うアコースティック・エミッション(AE)の説明の場所の音響信号の時間スイープが話題になるところに現われる。
 この本の章だてはchap. 1 .Superconducting Magnet Technology(ここでこの本の構成とその考え方についての岩佐教授の詳しい説明が行なわれている)、chap. 2 Electromagnetic Fields (完全導体、完全反磁性 体である超伝導体の存在によって磁界がどのような変形を受けるかというようなことの数学。シールドの問題が含まれる)、chap. 3 Magnets, Fields and Forces (ここで種々のコイル構造とその中に生じている磁気的な応力が扱われる)、chap. 4 Cryogenics(液体ヘリウムの浸漬冷却、ガス・ヘリウム冷凍、1.8Kサブクールなどの冷凍モードと伝熱工学の中身)、chap. 5 Magnetization of Hard Superconductors(輸送電流やフラックスジャンプ、磁化測定法など)、chap. 6 Stability, chap. 7  AC. Splice, and Mechanical Losses(複合超伝導線の複雑な断面構造の根拠を十分に理解させてくれるはず)、chap.8 Pretection( HybrudI, IIなどMITFBNMLの高磁場マグネットやNMR/MIRマグネットが例となっている。また、高温超伝導コイルの安定性も評価対象となっている)、chap.9 Concluding Remarks(高温超伝導への岩佐教授の思い入れが披露されている)。さらにこの後、約40ページを使ってDATAとGLOSSARYが続く。いずれも超伝導技術に必要な数値とキーワードがアメリカ生まれの本らしい実用センスで集められている。
 岩佐教授のもとで超伝導マグネットに関する修業をした日本人研究者、技術者の数は非常に多い。その人達が岩佐教授の指導のもとに修めた成果が本書には盛られていることもこの本の一つの特徴となっている。岩佐教授が、あるいはMITFBNMLが関与して実現した超伝導マグネットは世界のいたるところにある。古くは浮上式リニアの先駆けとなったMAGNEP LANEがあり、High Magnetic Field Gradient Separation がある。世界の高磁場ラボのハイブリッドの大半はこのFBNMLの設計、製作にかかるか、指導をうけて作られている。東北大学の32テスラハイブリッド・マグネットができる前は日本で試作される高磁界マグネット用新超伝導体はほとんどがここで性能評価をうけた。いまでも超伝導酸化物導体の試作や試作コイルも、IGCや住友電工や昭和電線ではここのネオン温度や水素温度の評価施設を利用して評価している。したがって超伝導マグネットに関して引用されている論文の数も極めて豊富である。
 ということで、本書は現在絶版になっているMIT Mongomery 教授のSoienoid Magnet Designや現在は OxFord 社に籍を置くWilson のSuperconducting Magnetがいささか色褪せた幹事があるところで、絶好のタイミングで現われたといえる。
 もう一つ付け加えておきたいのは「まえがき」に岩佐教授が書いている本書誕生のいきさつである。本書は大学院での講義のために準備したノートとそこで学生に課した宿題(演習)ノートをもとに作られた。だからこの本を読むと、米国学生の実務的な能力の高さが理解できる。それよりも、それを学生の身に付くように教授する米国大学教官の準備の緻密さに感心する。日本では授業のために準備したノートを本にして出版し、学生に売りつける先生達の著書が溢れている。しかし、どれも概論まがいの内容で、内容を本当に利用できる力がつくような教科書にはめったにお目にかかったことがない。大学教育とくに後期大学教育が実際の研究者・技術者を育成する実務教育を標傍するなら、それに関わる教官はこの本の内容程度の準備はしてみせてほしいものである。といった見方からも、これからの役にたつ技術教育とは何かを考えさせる本書の意義は大きい。

(Ogiwara)


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