SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, No.4, Vol.1, Feb.1995, Article 1

科技庁「超伝導マルチコアプロジェクト」第2期スタート決まる

 科学技術庁は 1988 年 5 月より「超電導材料マルチコアプロジェクト」を開始したが,これが94年度で終了するのにともない,推進委員会の評価答申が10月29日提出されたのを受けて,95年以降5年間の第2期「超伝導材料研究マルチコアプロジェクト(表記変更)」を発足させることを正式に決定した。研究開発局材料開発推進室岩橋理彦氏が年末に未踏科学技術協会の発行する新超電導材料研究会 NSMF NEWS で発表した紹介記事などをもとに以下に紹介する。
 第1期プロジェクトの主な成果としては,金属材料技術研究所のビスマス系超伝導体の発見と,それに次ぐ材料化と線材化,またその線材を用いての 21.8 テスラの世界記録樹立(酸化物ブースターコイル使用で),ボルテックス状態などに関する基礎研究,無機材質研究所の電子顕微鏡,中性子などによる構造決定と新物質探索,ビスマス系などの単結晶合成と基板作成,理化学研究所のヘルメットサイズ磁気シールドによる磁気雑音低減と高Q値の高周波空洞共振器試作,原子力研究所の照射による柱状欠陥形成と臨界電流向上などがあるとされ,第 1 期はこれら科技庁傘下の国立研究所の活躍の場面を作り出す原動力として成功したと外部的にもみられている。特にこの間,大型設備としての金属材料技術研究所の超強磁場施設の設置,無機材質研究所の高分解能電子顕微鏡の整備と超高圧合成設備の拡充,理化学研究所のイオン散乱分光装置の設置など,高温超伝導以外からも要望されていた施設実現をはかるために,高温超伝導にからめてプロジェクト予算がうまく利用されたとみられる。科学技術庁としてはこれら研究所のCOE形成をこの第1期において行うことができたとみるべきであろう。事実,これらの重点を注いだ関連グループは高温超伝導以外の分野においても世界的なレベルで認知される活躍をしていることから,これらの計画は成功であったと見る向きが多い。ただし,金属材料研究所の超強磁場施設の本格的稼働はこれからであるので,大型施設であるだけに,今後の運用手腕が問われるところ。
 第2期の目標は第1期の基礎・基盤的研究での15のコアを3領域6コアに収束し多面的展開を計りたいとしている:理論情報コア,材料化基礎コア,構造解析コア,特性評価コア,強磁場応用コア,弱磁場応用コア。この中で理論情報コアは金材研を中心に大学を含む共同研究を組織して,メカニズムとピンニングなど超伝導特性を含む理論構築を目指し,日本科学技術情報センターの協力も得て,データベース構築をさらに進めたいとしている。材料化基礎コアは無機材研を中心として新物質探索,金材研を中心として線材化など材料の高度化を追及する。ビスマス系線材は金材研の発見に基づくだけに,線材高度化は外部からも注目されることになるであろう。構造解析コアでは無機材研を中心とする特殊電子顕微鏡を新設してのピニングセンターと磁束の同時観察による臨界電流向上のための基礎研究に大型予算を計画している。また,理研などのイオン散乱などを用いた界面キャラクタリゼーション,原研などの中性子を用いる構造研究を含む。特性評価コアは金材研を中心として磁場の効果や線材,デバイスの評価を行う。
 もう一つの大きな目玉である強磁場応用コアは金材研,新技術事業団を中心に,企業や大学の協力も得て,金材研の強磁場施設の運用を開始するとともに、高温超伝導磁石でブーストアップして超強磁場超伝導磁石を開発し,1ギガヘルツを目指したNMR(核磁気共鳴測定装置)のシステム開発を企図している。これはフロリダ州の米国国立強磁場研究所も目標としており,今後の展開に興味がもたれる。NMRは現在神戸製鋼の17.6テスラ磁石を用いた750Mヘルツが稼働しており,オクスフォード社が 20 テスラを販売開始したので,高温超伝導磁石を用いてどこまでこれが高められるかが見どころである。高磁場では電磁力が巨大となるため,機械的な工夫が成否を分けるポイントと目されている。化学や固体物性の測定ではNMRの周波数アップはそのまま測定精度の向上に結び付くので,このプロジェクトが成功して測定が可能となるとこれら分野への波及効果が期待されている。1ギガヘルツを達成するためには 23.5 テスラの磁場発生が必要で,かつ,NMR測定には均一磁場が必要となる点で技術開発要素は多い。さらに強磁場コアは数テスラレベルの高温超伝導大型磁石の実現をもう一つの目玉としており,それを磁気分離に応用したシステムへの展開を企図している。これには磁気分離そのものの技術開発が含まれねばならないと予想される。このコアの特色は,このように高温超伝導を用いた機器を実現するだけでなく,その利用までをも含めたシステム展開を狙っている点で野心的であるといえるであろう。
一方,弱磁場応用コアは理研と宇宙開発事業団を中心に,脳磁場の計測と宇宙用機器(サブミリ波領域の観測機器開発)への展開を企図している。
 なお,科技庁はこのための予算として95年度49億円余を要求している(94年度43億円)。ちなみに通産省関連プロジェクト(国際超電導産業技術研究センター,超電導発電機,超電導電力貯蔵など)の総予算額95年度要求は97億円(94年度は80億円),運輸省は MAGLEV 関連の技術開発補助費として52億円(94年度54億円),文部省はこれまで重点領域研究の約4億円と,東北大,阪大,京大,九大などの超伝導関連施設費を含めて約10億円であったが,95年度は重点領域が抜け落ちる形となっていると思われる。ただし,科学研究費一般研究には大学教官が個別に申請していると思われるが,95年度にどれだけ受理されるかはまだ決定していない。

(Iiyama)


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