製造線速はIBAD中間層において5 m/h、PLD超電導層において6.6 m/hと従来より向上しNEDOプロジェクト数値目標はクリアされた。今回は基板研磨工程を入れる等、昨年に比べて基板及び中間層の品質管理が向上し特性劣化頻度と中間層膜厚が低減されている。Gd-123材料は従来のY-123に比べて臨界温度が若干高いほか、気相からの膜生成条件が比較的安定しており日米の線材開発において主流的に用いられつつあるが、今回の結果等により長尺にわたって高特性を維持し易いことが明確になってきている。
一方、周知のようにRE123系線材は米国Super-Power社においてMgOを用いたIBAD中間層、CVD法による超電導層の開発により急速な生産性の向上が報告されており、4 mm幅線材換算で線速100 m/h以上の製造能力があるとしている。フジクラにおいては、IBAD中間層については米国同様にMgOを使うことにより、超電導層においてはPLD法の高収率化により、10 mm幅で少なくとも数10 m/h程度の線速を得るべく開発を進めている。
MgOを用いた高速IBAD中間層については、図3に示すようにMgOの2種の配向様式があることを見出している。これまでに、比較的安定しているMgOの〈111〉配向膜(図3(1))を用いて従来のGZO中間層を積層した2段IBAD構造とすることにより、中間層線速を全て20 m/h以上で製造できることを見出した。本中間層にCeO2膜まで載せた段階で~ 3 °となり、積層したYBCO膜のIc値として200 Aを確認している。〈100〉配向膜(図3(2))については、最近1.1 m長の大型イオンソースを用いたIBAD装置を投入した結果、少なくとも100 m/hの線速で~10 °のMgO層が成膜できることが確認された。
PLD法による超電導層においても、基板の研磨及びそれに伴う配向性向上、Gd-123系材料の採用等によりJcが向上している他、原料収率を50%程度に引き上げるための開発を進めており、これまでに図4に示すような均熱型のPLD蒸着装置を用いて20 m/hの線速でIc = 300 Aが得られることを確認した。これまでのところターゲット組成は全てGd:Ba:Cu=1:2:3のストイキオメトリーに保っているが、近年Ba組成比を減らすことによる特性改善が多く報告されており、今後この点の検討によりさらなる特性・線速の向上が期待できる。以上のように、プロセス全体のスループットを10 mm幅線材で20 m/h以上とする目途は立ちつつあり、これらを長尺化開発に適用することにより、生産力の飛躍的な拡大が期待できる。
図5に昨年度にプロジェクト内で回転界磁モーター、変圧器、限流器等の機器プロトタイプ開発のために提供した線材の出荷実績を示す。約5 km長のRE-123線材が、5 mm幅に裁断した上で表面に銅などの安定化金属を半田で貼り合せ、さらにカプトンテープ巻きにより絶縁を施した導体構成として出荷された。今年度より開始される新しい超電導機器開発プロジェクトにおいては約10倊の線量を必要とするが、現在進めている高速化開発を成功させることで対応することを検討している。本製法は初期投資費用が大きいという問題があるものの、設備関連費は生産力の増大とともに吸収されていくので、銀の使用量が多いBi2223系線材の製造コストを下回ることは充分期待できると考えている。
(FJ)