SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

7. 酸化物系SFQ回路の論理動作実現_超電導工学研究所_


 超電導工学研究所ではYBa2Cu3O7-x系薄膜を用いてSFQ (単一磁束量子)回路を作製し、40 K近くまでの温度で論理動作をはじめて実現した。動作を確認したのはSFQ-dc変換器、セット・リセット・フリップフロップ(RS-FF)、コンフルエンスバッファ、スプリッタ等SFQの基本となる回路である。この結果は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託された研究開発成果に基づくものである。

図1に作製したRS-FFの回路写真を示した。超電導接合はランプエッジ型で、回路の周辺に信号以外の磁束をトラップするモートが設けられている。RS-FFを29 Kで動作させた例を図2に示した。セット信号の入力後、リセット信号が入力されたときのみ出力信号が得られ、RS-FF動作が実行されていることが分かる。このようなRS-FF動作は4.2 Kから30 K近くの温度まで確認できた。このほか、2本の入力線からの入力信号を、ともに1本の出力線に出力させるコンフルエンスバッファは25 Kまで動作した。1個の入力線からの入力信号を2個に分けて、2本の出力線に出力させるスプリッタは16 Kまで動作した。また100個の超電導接合からなる接合線路に38 KまでSFQ信号が伝わることを確認した。この結果は酸化物SFQ回路の高集積化の可能性を示している。

このようなNb系プロセス技術で作製されているSFQ回路を酸化物薄膜技術で実現し、30~40 Kの高温で動作させようという試みは5年以上にわたって続けられてきた。これまで酸化物系回路を作製して論理動作を実現できなかったのは、酸化物回路のプロセス技術がきわめて困難であったことに加えて、動作容易なSFQ-dc変換回路がなかったことにも原因があった。SFQ回路で処理された信号を電圧信号に変換しない限り、超電導チップの外に信号を取り出すことができない。超電導工学研究所ではSQUID(超電導磁束干渉素子)を2段直列にした簡単な構造でSFQ-dc変換器の機能を持たせ得ることを示した。SFQ信号は下段SQUIDに保持され、SFQにともなう電流がSQUIDループに流れる。このループ電流によって上段SQUIDが電圧状態にスイッチする。このような2段SQUIDをSFQ回路の出力部に繋いで、これら様々な論理動作を調べた。

超電導工学研究所の樽谷氏によれば、「今後はこのような酸化物回路をさらに高集積化して、高速信号を並列化して周波数を低減するデマルチプレクサ等の機能回路を開発する。一方ではドライバ回路を作製して、GHzレベルの高速信号を外部に取り出す試みを実施する。《とのことである。 

          


図1 作製された酸化物系セット・リセット・フリップフロップ回路


図2 セット・リセット・フリップフロップの29 Kでの論理動作

                   

                               

(TOKIWAN)