SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.13, No.6, December. 2004

4. Ho123膜で線材の長尺化進展_住友電工_


 住友電工は、低温工学・超電導学会(11月1 ~3日)、CCA2004(11月19, 20日)、ISS2004(11月23 ~25日)などでHo123膜を用いた長尺線材(コーティッドコンダクター)の最新開発状況を相次いで発表した。

 入手した最新成果をまとめると以下のようになる。

・ Ni系配向基板上の気相法中間層(CeO2/YSZ/CeO2)で105 m長

・ Ni系配向基板上の気相法中間層上のHo123膜(PLD法)で35 m長線材、Ic = 110~175 A-cm幅 (77K、0T) (図1)

・ Ho123膜線材サンプルを用いた低温・高磁界Ic特性で2420-cm幅(30 T, 4.2 K、外部磁界はテープ面に平行)

・ Ni系配向基板上の気相法中間層上のHo123膜(フッ素フリーMOD法)で10 m長線材、Ic = 91~130 A-cm幅 (77 K, 0 T) (図2)

・ Ni系配向基板上の気相法中間層(CeO2/YSZ/CeO2)を両面成膜した2.5mの基板上にPLD法でHo123層を成膜、両面のIc = 179A-cm幅 (第一成膜面:81 A-cm幅、第二成膜面:98 A-cm幅)

同社は学会発表の中で将来のHo123薄膜線材の量産構想に触れ、同社のBi-2223線材と競争していくためには、今後数年間の開発において1時間あたり最低50 m / h以上の製造速度の達成が上可欠であると述べた。住友電工では、本年稼動させた加圧焼成法で製造されたBi-2223超電導線材を用いたHTSケーブルの実用化を加速させており、米国のオールバニープロジェクトに次いで、韓国電力公社電力研究院(KEPRI)からHTSケーブルシステムを受注する等、Bi線材とそのケーブル応用に開発を集中させている。同社のHo123薄膜線材開発を率いるエレクトロニクス・材料研究所の薄膜線材プロジェクトリーダーである大松一也氏によれば、「コーテイッドコンダクターの世界的な開発競争と同時にBi-2223線材と競合できるプロセス開発が急務。企業として薄膜線材の実用化を考えた場合には、スループットが50 m / h以上のプロセスが必須であり、この観点から数年前に開発の考え方をギアチエンジした。本年の成果は、ここ数年間の技術開発成果が実を結んだ最初のものである。《と語った。

同社が用いるNi系配向基板は長さが100 mクラスで、面内の半値幅は6°から8°のものを使用しているが、基板の開発状況や入手先は明らかにしていない。中間層構造はオークリッジ国立研究所が開発した構造と類似であるが、いずれの中間層も大面積で高速化が可能なスパッタ法やPLD法で開発が進められており、製造速度も1 cm幅の基板上ですでに10 m / hに達している。現状の成膜装置で5 cm幅の幅広基板も使用できるとのことで、50 m / hの達成見込みも得られている模様。一方、Ho123超電導膜についてはPLD法のコスト高と低スループットを改善するために、フッ素フリーのMOD法に取り組んでいることが注目される。同社の長谷川勝哉主査研究員によると、フッ素フリーMOD法のメリットは、1) 国産技術であること(産総研がオリジナルに開発)、2) 人や環境にやさしいこと(中性溶液でフッ素なし)、3) 低コストプロセスの可能性が高いこと(フッ素処理の環境コストが上要)、4) 生産性に優れること(短時間でHo123結晶成長が可能)、であり、100 m線材へのチャレンジも近々開始したいとコメントしている。

コーテイッドコンダクターの開発は、日米共にIBAD法による長尺線材がIcや長さで先行しているが、Ni系配向基板を使用した線材開発の追い上げも急ピッチで進んできており、AMSCと共に住友電工がこれらの開発の先頭集団に加わった。                                                   

                               


図1 35m PLD法超電導線材のIcの分布


図2 10mF-FreeMOD法超電導線材のIc分布

(ゆきたん)