これまでに、SRL-NCCCはイオンビームアシスト蒸着 (IBAD) で成膜したGd-Zr 酸化物中間層上に、セルフ-エピタキシーと呼ばれる高配向のPLD-CeO2層を形成して、YBCO層に優れたテンプレートを提供してきた。その基板を用いて、高IcのYBCO層を連続成膜した成果で、SRL-NCCCにおける線材開発の一つの節目といえよう。従来のPLDは1つのプルームで1本の基板に成膜するため、成膜領域が他の気相法に比較して小さく成膜レートを増大させることが難しいという課題があった。その課題克朊のためマルチプルームでは、レーザー光を光学系によりYBCOターゲット上を走査させて、見かけ上複数のプルームを1つのレーザーで発生させることで線材の長手方向への成膜領域の拡大を図った。実際の成膜では4つのプルームが成膜に寄与する形となり、各プルームは約40 Hzで発振しているので総計で160 Hz相当のレーザー発振に相当していた。一方、マルチ-ターンは基板を基板ヒーターに3回巻き回して成膜領域を線材の幅方向に拡大し、リール-トゥ-リールで基板を移動させながら成膜するというものであった。
MPT-PLD法による長尺線材開発では、今夏21 m長の線材でend-to-end Ic = 85 A を達成した。通電特性、YBCO結晶の配向、膜厚に関して均質であることが確認され、MPT-PLDのメリットとして報告があった。なお、この線材は交流超電導電力機器基盤技術研究開発プロジェクトの導体化検討用としてSuper-GMに提供されており、今後の導体化研究の成果が注目されるところである。
さらに、長尺化および高 Ic化を図った成果が、図1に示される45.8 m長のYBCO線材の作製である。
図2に示すように、end-to-end Ic は182 Aに達し、Ic×L (長さ)で8.34 kA・mを達成した。YBCO層の成膜は、12 m / hの基板移動速度で4回繰返し成膜したので全体で3 m / hに相当し、このIcのレベルではかなり速い成膜速度である。この成果について超電導工学研究所 吊古屋高温超電導線材開発センター・センター長の山田穣氏は、「Icが200A級の長尺線材が作製できたことは、超電導応用基盤技術開発プロジェクトの中間目標 ” Ic×L =200 A×200 m”の達成に大きな前進といえる。Super Powerの記録を抜いてIc×Lで世界一になったことは、我々の開発能力を実証して見せたといえよう。《と語った。もっとも直後にフジクラにIc×Lで抜かれたことについては、残念そうであった。今後の線材開発について同センターの渡部智則主任研究員は「短尺試料ではIc = 300 Aを達成できる成膜条件を適用したが、長尺線材作製には十分に最適化されていないことが組織観察などからわかった。逆に、長尺線材のIcはまだまだ増大できるともいえる。TFA-MOD法では著しいIcの向上が報告されているが、PLD法でも高Ic化を緩むことなく進めたい。《と述べていることから、さらに高いIcの長尺線材作製を計画していると思われ、プロジェクトの目標達成へ向けた線材開発はますます加速するようである。
図2 45.8m長YBCO線材の全長におけるI –V特性
(信長の塀)