清水克哉講師らは近年までに、100万気圧以上の圧力と30 mKの極低温の同時発生に成功して、周期表上の様々な元素物質の圧力誘起超伝導を先駆けて発見してきている。酸素や鉄の超伝導の発見を含めてグループが発見した圧力誘起超伝導元素は7つ目とのこと。百十数種類の元素のなかで、およそ三十の元素は常圧力下の超伝導体である一方、圧力下では今回のリチウムを加えてさらに二十数個を超伝導体の仲間に入れた。天谷喜一大阪大学吊誉教授は「圧力条件下を含めれば超伝導現象はすべての元素で普遍的に存在するのでは。」と話す。最も軽い元素の水素にも高圧下で金属・超伝導状態が存在すると彼らは信じている。未だ水素の金属化は達成されていないが、水素の金属状態の模型としてどのようなものが考えられるであろうか。等核2原子分子の性格から類推すれば、そのひとつはハロゲン分子の金属状態であり、もうひとつは周期表の一番左端に並ぶアルカリ金属である。ハロゲン分子結晶の高圧下の金属転移とその超伝導性については、既にヨウ素と臭素について同じく清水氏らのグループによって報告がなされている。アルカリ元素は代表的な金属元素と考えられるが、常圧力下では超伝導を示さない。これについては過去から多くの議論があり、アルカリ金属は高圧下では超伝導になるのであろうか、というのもこの探索研究の動機であろう。
彼らの実験の数年前に、Ashcroft氏により超高圧下ではリチウム原子核が対を形成するという理論予想がなされた。これは圧力下での分子解離の逆過程であり、対称性を悪化させる方向でかつ同時に絶縁体化の方向に相転移するというものである。この分子化・絶縁体化は実験的には確認されていないが、ドイツのグループによる高圧X線回折実験によりその理論を支持する新たな高圧構造の確認、さらには超伝導転移温度が50 Kないしは80 Kに至るとの理論予測も飛び出し、リチウムの高圧下の伝導性は(超伝導性を含めて)、超高圧研究者の最も興味ある研究対象のひとつとなっていた。
リチウムは非常に反応性が高く、また流動性が高いため高圧実験には多くの難点があった。「ダイヤとも反応するので多くのダイヤが実験中に割れてしまった。」とグループの基礎工学研究科院生鷹尾大五郎氏が話してくれた。これらは、冷却下圧力印加により反応性を抑え、ダイヤにくぼみをつけて流動を抑えることで解決したそうだ。その結果、約25万気圧以上の圧力で超伝導が発見され、48万気圧で元素としては最高のおよそ20 Kを記録した。この結果はネイチャー誌に掲載されたが、その数週間後には同様の内容の研究が米国のHemleyのグループによってサイエンス誌に報告されるなど、軽元素の超高圧下超伝導研究に対する世界的な競争状態が明らかになった。
清水氏は「意外と低い圧力で超伝導になってくれて助かった。もうダイヤがないので。」と話している。
(イミテーションダイヤ)