本プロジェクトの目指すものは、ニオブを超電導材料とするジョセフソン素子を用いて、従来の半導体技術では実現上可能な超高速・低消費電力性能を実証することである。具体的には、ルータ用スイッチモジュールおよびサーバ用プロセッサモジュールを開発する。吊古屋大学早川尚夫教授をプロジェクトリーダーとして、ISTECの研究機関である超電導工学研究所(SRL)の研究員および企業からSRLへの出向研究員からなる集中研究体制を構築して推進する。さらに、再委託および共同実施の形態で関連分野の研究に優れた実績をもつ大学、国立研究所と産学連携を図りながら、超高速ネットワークデバイスの開発をめざす。実施体制を図1に示す。主たる研究開発はNEC筑波研究所の建物内に超電導工学研究所低温デバイス開発室を設置して推進する。
以下に述べる①~④の4つの項目について研究開発を行う。①と②で開発した技術を③と④に適用する形で推進する。
①ニオブ系LSIプロセス開発
これまでNECを中心として、数千接合規模の回路が試作できる技術(NEC標準プロセス)が開発されている(図2)。本プロジェクトの中では、これをさらに発展させて10万接合規模の回路が作れる技術の開発を行う。
②超電導磁束量子(SFQ)回路設計基盤技術開発
本研究開発は、セルベーストップダウン設計を基本としたSFQ回路設計基盤技術の構築を目的とする。具体的には、(1)論理セルライブラリの構築と論理セルの最適設計アルゴリズム・ツール開発、(2)自動化設計手法研究とツール開発、(3)最適回路アーキテクチャ、配線スキームなどの回路高速化手法の研究開発、の3点を柱に研究開発を行う。
③SFQルータ用スイッチモジュールの基盤技術開発
SFQ回路技術を用いたパケットスイッチモジュールの開発を行う。目指す性能は1.2Tbpsである。(1)ルータアーキテクチャ研究、(2)パケットスイッチLSI開発、(3)超高速SFQ LSI実装モジュールの開発の3項目に分けて行う。
④SFQサーバ用プロセッサモジュールの基盤技術開発
SFQ回路をマルチプロセッサ構成のサーバに応用することを念頭に、適切なマルチプロセッサ構成法の提案・評価、プロセッサモジュールのマイクロアーキテクチャの提案を行うとともに、基本構造の動作実証・評価、および構成回路の高速動作実証等を実施する。
以上の研究開発を行うことにより、これまで小規模のテスト回路でしか実現されていなかった超電導デバイスの超高速・低消費電力性能を、システムレベルで評価することができる。
上記について、国際超電導産業技術研究センター副理事長・超電導工学研究所長の田中昭二氏は「平成14年度から経済産業省の「低消費電力型ネットワークデバイスプロジェクト」が開始されたことはたいへん喜ばしい。超電導工学研究所でのデバイス研究は、これまで主に高温超電導材料を用いて進めてきたが、今回のプロジェクトが開始されたことにより、高温超電導(HTS)デバイスだけでなく、低温超電導(LTS)デバイスの研究開発も行うことになった。HTSデバイスとLTSデバイスにはそれぞれ役割分担があり、どちらか一方があればもう一方は上要というものではない。HTSデバイスは簡易な冷却装置で動作するので、将来はユビキタス超電導としていろいろな場面で利用されるであろう。それに対し、LTSデバイスは半導体大規模システムを置き換えるような超高速システムとして実現されるだろう。両方のデバイスが車の両輪のように機能して、来るべき大規模・超高速ネットワーク社会に大いに貢献できるものと期待している。」とコメントしている。
図2 NECの標準プロセスで作成した2×2クロスバースイッチ(接合数:約2400個)
(佐波瑠太)