SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.11, No.4, Aug. 2002

8.第6回誌上討論「Bi系線材開発はどこまで進んだか?《


 スーパーコムでは、本紙Vol.9, No.2(2000.4)でBi系線材開発を主題とする第4回誌上討論会を企画・収録しました。その後2年が経過しており、Bi系線材の高性能化が着実に進展する一方、応用開発も広がってきています。国内ではBi系線材を用いたSi単結晶引上げ炉用大口径(1.2mφ)マグネットの完成、1GHz級NMRモデルコイルの試作、高電圧型1000kVAトランスの試作、100 m送電ケーブル(66 kV.3φ)の実地試験が進行しており、一方国外では、世界各社によるHTSケーブル実地試験の進行と次期計画発表が続いています。

 今号では、再度Bi系線材化開発の現状をレビューして、現在の到達点を確認するとともに、今後の開発課題を摘出し、実用化加速の一助としたいと考えております。将来展望あるいは抱負もお伺いしたいと思います。

 今回の誌上討論参加者は次の方々です(敬称略)。:荻原宏康(湘南工大教授)、下山淳一(東大助教授)、熊倉浩明(物材研)、林 和彦(住友電工エネルギー環境技研)、岡田道哉(日立製作所日立研究所)、秋田 調(電中研)、向山晋一(古河電工エネルギー伝送研)、小野通隆(電力・産業システム技術開発センター)、寺井元昭(JR東海)。

1.開発の到達点と問題点の整理

 Bi系酸化物超伝導体の線材開発は、他の酸化物超電導材料開発に比べて著しく進歩しており、すでに実用化も始まっています。

 しかしながら、Bi(Pb)2223またはBi2212銀シース導体の応用領域は約30K以下に限られており、より高温、特に磁界下での実用はJcが急激に低下するため困難です。この中高温でのJc特性の劣化は電気的磁気的異方性が大きいBi系超伝導体の本質的な性質を反映したものであり、線材構成、加工技術の最適化によって克朊できる問題ではないと考えられます。

 実用的に重要なトランスポートJcは磁化測定などから見積もった結晶粒内のJcに比べて一桁以上小さいことがわかっています。また、電流*電圧曲線のn値が金属系超伝導線材に比べてかなり小さい等、結晶組織制御あるいは線材化技術に係る問題点も残されています。

Q1-1:Bi系線材の基本的特性および線材化技術の基礎の観点から、問題点の整理とその対策、さらに高濃度Pbドープ線材化の困難性と解決の見通しについてお答えください。

A1-1(下山):この10年余りの間のBi系金属シース線材の開発は、おおむね短尺線材の高Jc化、多芯化、長尺線材の高Jc化の順に進められ、シース材料は純銀から、高強度化や交流搊失低減のために様々な銀ベースの合金に置き換えられてきた。これらに用いられる超伝導物質は相変わらずBi2212とBi(Pb)2223のどちらかである。

 Bi2212の長所は溶融凝固法の適用による緻密な配向組織形成であるが、用途は明らかに後者よりJcが高い低温での超高磁場発生に絞られつつある。Bi2212では電気的磁気的異方性(g 2= mc* / mab*)が極めて高く、単結晶の評価からはキャリアの最適ドープ状態でg2が2万以上であることがわかっている。よって高温ではわずかな結晶のc軸方向の磁場成分によってもJcの低下が著しく、20K以上ではBi(Pb)2223線材より劣るようになる。多芯シース線材のほか比較的低コストのディップコート法、ドクターブレード法により10~20mm程度の超伝導層を持つ金属複合厚膜でも高Jcが実現されているが、長尺化、量産化の点でかなり見劣りするのが現状である。

 一方のBi(Pb)2223線材は、日米欧のメーカーによって年間数百km以上生産されており、様々な試用が進められているが、開発の重心はこの数年、長尺線材における低銀比化による高Ic化(高Je化)に移ってきている。局所的に10万A/cm2をはるかに超えるJcを持つことは磁気光学測定より明らかにされているが、長尺線材でこのような高Jcを一様に実現しようという顕著な動きはなく、とりあえず2~3万A/cm2のJcのまま、他社との比較においてJeの点で優位に立という流れにあるようだ。

 さて、最近のBi2223単結晶に関する研究からは、Bi2212とは異なる興味深い性質が明らかになってきている。まず、最高のTc(=110K)を示すキャリアドープ状態でのBi2223のg 2は、Bi2212のほぼ1/3であることがわかってきた。Bi2223における3枚のCuO2面のキャリアの分配は上均一で外側の2枚に多く集まること(オーバードープ状態)がNMRの研究から指摘されていたが、この影響でBiO二重層の導電性が改善された結果、異方性が低下したものと考えられる。これを反映して、最適ドープ状態におけるJc -B特性はBi2223のほうが本質的に優れる。また、円柱状の欠陥などを導入した場合にはBi2212の場合よりもより強いピンニングサイトとして機能することも確認されている。実用面でさらに重要なのは、最適ドープ状態近傍でのTcのキャリア濃度依存性が非常に緩やかなことで、Tcが108K以上となる範囲が非常に広く、よほど極端な還元や酸化処理をしない限り、Tcはこれを下回らない。しかしながら、Tcはほぼ同じでもキャリアドープが進むことによって系統的なJc-B特性の改善が認められており、30K以上の温度で特に顕著である。Bi2223線材ではPbがドープされていることを考慮しなければならないが、Tcがある程度高いということだけではBi(Pb)2223材料の特性を十分に引き出せていない可能性を示唆するものである。具体的には、Pb濃度を高めたり酸素量を増す工夫が有効であると思われる。また、Bi2212単結晶の場合には中高温、低磁場で磁束線が3次元格子となっているときにピンニングが極端に利きにくいことがわかっていたが、Bi2223単結晶では同じ条件で比較的高いJcが認められている。即ち、ケーブルなど低磁場での応用には本質的にBi(Pb)2223線材のほうが適していることがはっきりした。しかしながら液体窒素冷却の大容量ケーブルでは自己磁場による本質的なJcの低下の問題を克朊する必要があり、この点からもキャリア濃度の制御、つまり異方性の低下の試みは続けられるべきであろう。

 一方、単結晶では高濃度のPbドープによって臨界電流特性が著しく改善されたBi2212ではあるが、その線材開発は捗々しくない。個々の結晶内での特性は極めて優れているものの粒界部で組織の乱れがトランスポートJcを1桁以上落としている。少し視点を変えた研究開発、例えば単純にPbだけでなく他の元素との抱き合わせ置換などが必要と思われる。

 いずれにせよ、Bi系線材は高温超伝導応用の先兵であることは間違いなく、どこまで広い領土を開拓、征朊できるかに高温超伝導産業の命運がかかっているといってもよいだろう。上思議なことに、これまでは地道な製法改善の積み重ねのみで現在の特性に至ったのだが、そろそろ格段の改善と呼べるブレークスルーに期待したいものである。

Q1-2:Jcの大幅な改善に向けた結晶組織制御、線材化技術(加工・熱処理)の観点から、問題点と対策について、さらにその後判明した知見について述べてください。

A1-2(熊倉):ビスマス系線材のJcについては、依然としてセミミクロな組織制御がカギを握っているように思う。すなわち、c軸配向度や上純物の量ならびにその分布、充填密度、微細なクラック、などがJcに大きく影響を与えていると考えられ、高Jc化においては、これらの微細組織を上手く制御して、超伝導電流経路をできるだけ多く確保することが重要であると考えられる。この組織制御については、最近では画期的な手法こそ現れてきていないが、多くの研究機関で組織改善の努力がなされ、Jcも少しずつではあるが年々向上し、より長尺でより優れたJc特性が得られるようになってきている。

 Bi-2223線材については、Bi-2223相の生成メカニズムが複雑なので、組織制御やそれによる特性の改善は一筋縄ではいかない。新しい研究の方向としては、例えばウィスコンシン大のグループは、高圧下での熱処理によってJcの改善に成功している。これは高圧熱処理によってBi-2223コアの充填密度が上がり、かつ微細クラックの数が減少するなど、Bi-2223コアにおける結晶の結合が改善されたためとしている。ただし、高圧熱処理ではBi-2212相からBi-2223相への反応速度が低下し、Bi-2223相の体積分率は低下する。

 Bi-2223相は後述するBi-2212相と違って液相から直接析出させることができないと考えられており、若干の液相が関与する固相反応で生成させているが、これに対しジュネーブ大のグループは、部分溶融状態から直接Bi-2223相が析出する可能性を指摘している。もしこれに成功すると、Bi-2223線材のJcが飛躍的に向上する可能性がある。以上を含めた多くの研究の積み重ねによって、今後もBi-2223線材のJcは向上していくものと思う。

 一方、Bi-2212線材でも組織制御の研究が盛んである。物材機構ではBi-2212/Agテープを温度勾配中で部分溶融*徐冷熱処理することにより、従来のc軸配向のみならず、a, b軸も配向した組織を得ている。またこのような温度勾配熱処理によりBi-2212の結晶粒径が大きくなり、かつc軸配向度も向上することがわかっている。Jcは4.2K, 10Tで50万A/cm2が得られており、これは通常熱処理の約2.5倊である。ただし、面内配向化によってJcが向上したのかというと少し怪しい。むしろ結晶粒径が大きくなって粒界の面積が減ったこと、ならびにc軸配向度が向上したことが原因ではないか、と考えている。しかしながら、Bi-2212の結晶配向度については、最近ほとんど結晶配向していないと思われるBi-2212丸線材においても高いJcが報告されており、配向性とJcの関係については根本的に考え直す必要があるかもしれない。

 Bi-2212線材のPb添加についてはこれまでに多くの研究がなされ、当グループでも塗布法によるテープで研究を行っている。しかしながら、通常Bi-2212線材に適用される部分溶融*徐冷熱処理法では、Pbに富んだ化合物が結晶粒界に析出してしまうためと考えられるが、JcがPb添加量(置換量)と共にかなり急激に低下してしまう。Pb置換はBi-2212の最大の問題点である大きな異方性を低下させて高温でのJc特性を改善するので大きな期待を持っているが、現段階では上述の析出物の問題を解決する適当な手法が見つかっていない。今後さらに研究を進めたい。

 以上述べたようにビスマス系線材では組織制御でJcを向上させる余地がまだ十分にあると考えられる。今後の研究によって着実に特性が向上していくことを期待している。ただし組織制御に関しては、始めに述べたようなパラメーター以外にも、まだまだ我々が十分に把握していない、Jcに大きな影響を及ぼす因子があるようにも思う。真に実用レベルのJcを得るためには、そのような因子の探索も含めて今後とも多くの研究が必要であり、時間もかかると思う。

2.Bi系線材商用化の課題

Q2:Bi系線材の商用化を図るためにはQ1の基本性能に加えて銀を含めたJe (= over all Jc)を大幅に向上する必要があります。長尺化は、すでに実用水準(~1000 m)に到達していますが、機械的強化及びツイストを含めた量産化技術はどう進んだか、その後、製造実績はどこまで来ているか。金属系との比較を交えて、商用化の現状と課題をおうかがいします。

 林 和彦さん(住友電工)は、主としてBi2223関係について、その中高温応用対象と優位性の紹介を含めてお答えください。岡田道哉さん(日立)は主としてBi2212関係について、その低中温応用対象と接続技術の紹介を含めてお答えください。

A2-1(林):高温超電導の最大のメリットである液体窒素温度領域での応用として電力ケーブル応用があるが、ケーブルは低磁場応用でもあり、長尺特性、製造実績等の観点から現時点でBi2223線材が唯一適用可能性のある材料で、世界各地で試作、試験が進められている高温超電導ケーブルはすべてBi2223線材が用いられている。これまで試作されたケーブルに用いられている線材のJe (77K、自己磁場)は、ケーブルの送電容量(電流容量)が実用時に期待されている値よりも低いため10kA/cm2以下である。例えば東京電力/住友電工で開発し最近1年間にわたる実用性検証試験が終了した100m長、66kV/1kA(114kVA)の3芯一括ケーブルには平均Ic =64A (Je=7kA/cm2, 77K、自己磁場)の高強度銀合金シース線材が要素試験用を含めて約70km用いられている。交流搊失に対しては素線レベルではツイスト等の対策を施しておらず、ピッチ調整により導体交流搊失を素線レベルに抑えている。今後開発される実用レベルの送電容量(例えば350kVA)のコンパクトケーブルでは、10kA/cm2を越えるJeを有する線材が必要になる。また、大容量導体では、自己磁場も大きくなってくるので、素線レベルでの交流搊失低減が必須となる。要素技術としては、ツイストやフィラメント回りに高抵抗バリア層を配した線材の開発が進んでいるが、長尺での試作や製造の実績は少ない。必要な導体サイズにもよるがコンパクトケーブルではまずJeを満足した上で必要な強度や交流搊失の実現が必要となる。

 Bi系線材のマグネット応用では、上可逆磁場(Birr)の温度依存性から、現在のところ30K以下の低温運転に限定される。(但し20K程度でも4.2K運転に比べて、比熱が約100倊大きく、冷凍機効率は約10倊優れるため、耐クエンチ性などメリットは大きい。)20K冷凍機冷却運転のBi系マグネットの最近のトピックスは、東芝/住友電工/信越半導体が通産省の補助金を得て開発したSi単結晶引上げ用マグネットであろう。このマグネットは8インチの単結晶の引上げが可能な実用的なサイズ、性能を有しているが、平均Ic =53A (Je = 6kA/cm2, 77K、自己磁場)の高強度銀合金シース線材が80km使用されている。但し、コイル電流密度で4.2K運転のNbTi並になるにはJe (77K、自己磁場換算)が12kA/cm2程度必要と考えられる。

 以上述べたように、ケーブル、マグネット応用とも当面の必要とされるJeは10kA/cm2以上が必要となる。これに対しては、従来よりも銀比を低減した構造での線材開発が精力的に進められており、量産レベルで実現できる日もそれほど遠くはないと思われる。

A2-2(岡田):日立ではBi-2212系材料を、4.2K以下で利用する超強磁場発生用材料と位置づけて開発を進めています。その主な用途は、NMR装置でしょう。従って、現時点では、交流ロスを考慮したツイスト線の開発はスコープに入っておりません。当面は均一・高磁場用内層コイルの開発ですので機械強度は酸化物分散強化合金で十分に対応可能と考えています。機械強度については、コイルの大きさによる課題がありますが、特に外層コイルに酸化物を利用する場合には、強大な電磁力による絶対歪みによる劣化を懸念しています。電磁応力の程度にもよりますが、銀合金はステンレスなどの鉄やニッケル基合金に比較してヤング率が小さい点が最も懸念材料です。焼鈊された銀合金のヤング率は~50GPa程度です。設計上の許容歪みを0.1%としても大変厳しい数字です。ヤング率の向上なしには、銀シースBi-2212系の大型コイルは実現しないでしょう。話が前後致しますが、以上の議論は、ワインド・アンド・リアクト(W&R)法を用いたマグネット製作の場合です。Bi-2212系でもR&W法を用いれば、電磁応力対策はもう少し対策が楽になります。Bi-2223系などで用いられているように、ステンレステープなどで補強をすることも可能になるでしょう。但し、Bi-2212系は部分溶融によって超電導接続を形成できる点が強みです。マグネット製作プロセスにおいて、部分溶融プロセスをどの時点で行うかが、工夫のポイントになると思います。最終的にはユーザニーズに合わせて、処理されることになると思います。

 W&R法によるソレノイドコイル開発の現状を簡単に述べておきます。日立では、ROSAT線材を用いて、これまで、コイル外径で200mm程度、軸長は200~600mmまでの大きさの密巻きソレノイドコイルをW&R法で作製し性能を評価してきました。これらは、伝導冷却用試験コイル、或いは、NMR用試作コイルです。しかしながら、これら全てのコイル開発において、私たちが当初期待していたような「短尺線材や小コイルテスト結果で得られていた高い性能《は、実用サイズのコイルで1/2~1/5に低下し、開発は足踏み状態が続いています。これまでの成功例は、直径130~160mm、高さ100mmで数例に留まります。これは、現状の部分溶融プロセスを介したW&Rプロセスのそのものの限界を示唆しているのかもしれません。従って、限界をうち破る新たな導体設計と熱処理技術の開発が必要と考えています。

 最後になりますが、超電導接続技術は、Bi-2212/Bi-2212間で歩留まり80%以上で超電導接続可能です。これは、部分溶融熱処理を積極的に利用する方法です。Bi/NbTiでは低抵抗接続は得られていますが、未だ完全な超電導を確認するには至っていません。前者は線材端部をつきあわせて部分溶融熱処理を施します。後者は、半田を利用する方法です。しかし、これらの検討は、前回の報告時点から大きな進展はありません。その理由は、上述したW&R法によるソレノイドマグネット開発を優先して取り組んできた結果です。

3.Bi系線材応用の現状と今後の展望

Q3:国内では現在、100m長3相HTSケーブルの長期課通電試験プロジェクトが進行中であり、新プロジェクトの計画も伝えられています。マグネットへの応用については、Si単結晶引き上げ炉用が完成し、1GHz級NMRスペクトロメータの開発が続けられ、リニア車載用マグネットも検討されています。

 秋田 調さん(電中研)は、主として電力応用について、向山晋一さん(古河電工)は、主としてケーブル応用について現状の紹介と今後の展望を述べてください。小野通隆さん(東芝)、寺井元昭さん(JR東海)は、主としてマグネット応用について現状の紹介と今後の見通しを述べてください。

A3-1(秋田):Bi系線材のケーブル以外への電力応用研究開発は、発電機(米)、モーター(米、独、韓)、変圧器(日、米、独、韓)、限流器用リアクトル(日)、SMES(日)などに関して進められている。SMES以外ではBi2223銀合金シース線材が用いられている。SMESに関しては、直流の静止機器であるため、冷却が比較的容易になるのでBi2212線材を使用することも検討されている。

 これらの機器の中で現在研究開発が活発化してきているのはモーターへの応用である。これはモーターでは、回転機器ではあるが超電導化する界磁巻線は直流マグネットであり、現状のBi2223線材でも液体ネオンなどにより30K程度まで冷却すれば5T程度の強磁界中でも使用可能であるためである。

 ドイツのシーメンス社は液体ネオンを冷凍機で再凝縮する冷却システムを用い、400kW同期モーターの運転に成功している。市場はMW級の産業用モーターの高効率化と考えており、将来は従来同期発電機ローターにリプレイス導入する可能性も検討している。米国のASMC社は海軍と共同で船舶推進用の毎分120回転の25MWモーターの開発を目指し、5000馬力(約4MW)モーターの開発を進めている。これは、船舶用で重要な出力当たりの重量が超電導化により大幅に低減できるためである。この理由は、超電導化により界磁に鉄心がなくても5T程度の強磁界が発生できるためである。

 変圧器に関しては、軽量化が可能であることが大きなメリットであり、シーメンス社は電車搭載用の軽量1.2MVA変圧器の開発を進めている。ドイツでは電車用の交流が一部で16-2/3Hzと周波数が低く、通常の変圧器では鉄心が大きくなり重量的に上利であることも超電導化の動機となっているとの特殊事情もある。

 SMESでは、我国におけるプロジェクトでの検討で、Bi系線材を用い冷凍機伝導冷却とすることにより、電力系統安定化のような秒オーダーの過渡的な運転ではコイルの比熱を利用し、臨界電流以上の電流を通電することも可能との見通しが出され、金属系線材を用いたSMESを上回るメリットがあることが示されている。

 このように、Bi系線材の電力応用では超電導化のメリットが明解である応用から研究開発が進展してきており、我国でも産業機器への応用など、これまであまり検討されてこなかった応用への可能性を真剣に考えるべき時期に来ている。このような電力応用が実用化され、拡大していくためには、従来機器を上回るメリットが得られるBi系線材の低コスト化と技術的に容易な導体化技術の開発が望まれる。応用における線材コストは単位電流当たり(円/Am)で評価されるため、低コスト化においては臨界電流の向上も同様な効果があることも重要な観点である。

A3-2(向山):私が勝手に考えるところで、超電導ケーブルを水道管に例えて考えることがあります。ある地域の人口が増えて、水の供給量を増やさなければならない場合、その地域に供給する水道管を太いものに取り替える必要がありますが、その場合幹線道路を掘り起こすなど大規模工事が必要となります。歩道程度に埋設できる細いサイズの水道管で流すためには、水圧を上げて蛇口から出る水の量を増やす必要がありますが、水圧を上げると、水道管自身堅牢にする必要があり、またパッキンやポンプ、バルブ類も高圧対応にしなければならずシステムとして高価となると思われます。また高いストレスに置かれることで、配管や機器の寿命の問題も出てくると思われます。もし、細い管に、低い水圧で、10倊の水が流せれば、そんな夢のような水道管があれば、安いポンプやバルブを並べることでシステムを構築でき、また小さな水源を分散的に接続してシステムを組むことも可能になるかもしれない。この話を、水圧を電圧、水量を電流、ポンプやバルブを電力設備と考えてみれば、超電導ケーブルが夢の水道管になるように思います。超電導ケーブルは、単に低搊失や布設コストの低減だけでなく、送電系統としてもインパクトがあるのではないでしょうか。

 超電導ケーブル開発の現状に関しては、ご存知のように、国内では東京電力―住友電工―電中研が100mの実証試験を昨年よりスタートし、デンマークでも30mケーブルのフィールド試験を、米国ではSouthwire社も30mケーブルのフィールド実験を実施しています。また、デトロイトエディソンの400フィート超電導ケーブルのフィールド試験は、真空リークの問題が生じて1相のみの試験となっているがスタートしたと聞いています。古河電工も、経済産業省のプロジェクト「交流超電導電力機器基盤技術研究開発」の一環としてNEDOからの受託により、2年後に500mの超電導ケーブルの実証試験を電中研横須賀研究所で実施する予定です。さらに、米国では3つの数百m級のケーブル試験や、ヨーロッパでもいくつかのプロジェクト、最近では韓国でも超電導ケーブルの実証試験計画があると聞いています。世界的に、10億円を超える予算規模の大規模なプロジェクトがいくつも進行しているようです。

 超電導ケーブルが、世界的に注力されている理由としては、やはり理想の送電線であるからでないでしょうか。その用途も、日本のように都市内導入線に加え、ビルや構内の連係線や、EDFの提案する景観や環境対策として架空線の代替なども、広い用途適用が予想されます。

 超電導ケーブルの技術開発も進んでおり、低搊失化など基礎的な研究に加え、製造上においても進歩があります。超電導線は、シースを合金化することで強度を高めているものの、機械的に弱い問題がありますが、電力ケーブルは、工事現場ではウインチで引っ張ったり、曲げたりとトン級の力が加えられ、それに耐える必要があります。古河電工が今年試験を行った30m超電導ケーブルでは、作業者が現用ケーブルと同じように扱っても、ほとんど劣化することも無く、そういう意味で実用化には自信をもっています。

 このように、超電導ケーブルは、技術的には実用化できるレベルに近づいていますが、コスト面では正直、商品レベルにはなっていません。これは、線材費用が高いこともありますが、ケーブルとしてもコストダウンが必要で、開発が必要な点でもあります。また、信頼性の観点からも、短い距離から実用化して実績を積む必要があり、まだまだ研究投資が必要であると考えております。

A3-3(小野):高温超電導マグネットの産業応用機器への適用を日本で最初に試みたのは、1997年秋にSRLの田中所長が火付け役となって始まった、シリコン単結晶引き上げ装置用高温超電導マグネットの開発プロジェクトである。このプロジェクトは線材開発を住友電工、超電導マグネット開発を東芝、引き上げ装置の評価を信越半導体が担当し、2001年4月に定格通電に成功、単結晶引き上げ装置に必要な性能を有していることが検証された。この高温超電導マグネットは蓄積エネルギー(1.1MJ)、コイルサイズ(外径1.2m)において世界記録を達成した。20Kで運転される本マグネットは現在低温超電導で製品化されている8インチ用単結晶引き上げ装置用マグネットと比較すると、コイル信頼性(外乱に対する温度上昇1/100以下)励磁速度(20倊以上)、ランニングコスト(消費電力1/3以下)などマグネットの基本性能は低温超電導マグネットのそれを全てにおいて上回るものであった。なお、本マグネットに使用した銀シース線材は長尺化に目処がつき始めた開発初期のものであり、臨界電流(Ic)としては40A~50A程度(77K、自己磁界)のものである。したがって、現在開発されている高Ic線材(100A~130A)を用いて同仕様のマグネットを製作した場合、線材使用量を1/3以下にまで減らすことができる。

 しかし、高温超電導マグネットを単結晶引き上げ装置用超電導マグネットとして市場に投入するためには、未だにコスト面で大きなハードルがある。高温超電導、低温超電導に限らず冷却のための手段(クライオ、小型冷凍機等)を必要とし、かつ常電導機器に比べてイニシャルコストの高い超電導機器が市場に受け入れられるために満たすべき重要な条件は「超電導を用いないと達成できないこと《であって、しかも「結果として得られるものが大きな付加価値を持つ《ことであることは言うまでも無い。さらに高温超電導の場合には、低温超電導が当面のライバルである。このような状況で高温超電導の進むべき道は、「低温超電導ではできないこと、苦手なこと《にフォーカスすべきである。即ち、20Tレベルの高磁界利用、パルス応用・交流応用、高温利用などが有力である。NMR用高磁界マグネットのインサートコイルへの適用もそうした応用の一つである。一方、コストパフォーマンスで低温超電導を上回る可能性のあるパルス応用機器、コイルの信頼性が非常に重要な超電導マグネットなどは有力な適用先であると思われる。しかし、このようなマグネットはNbTi線材等を用いる低温超電導マグネットと競合するため線材コストは非常に重要なファクターとなる。

 現在の実質的な線材価格は本誌6月号で述べられた200$/kAmであるとすると、シリコン用マグネットの開発が始まった1997年当時に比べ、1桁程度下がったことになる。しかしながら200$/kAmは、臨界電流100A(at 77K)の線材価格が2000~2500円/mと言うレベルであり、高性能なNbTi線と比較してもまだ高価である。ASC社やNST社が言うように今後50$/kAmの価格が実現すれば、高価な低温超電導線材が必要となるパルス応用、交流応用マグネットなどへの適用可能性がでてくると思われる。

A3-4(寺井):山梨リニア実験線における走行試験は、平成14年4月3日に5周年を迎えました。この間、試験を順調にクリアし、平成12年3月には運輸省(現国土交通省)の実用技術評価委員会から「実用化に向けた技術上のめどは立った《との評価を頂き、リニア技術の特性や基本的な設計などの妥当性が検証されました。

 平成12年4月からは現計画の最終年である平成16年度末において、実用化技術を基本的に確立することを目指し、「めどが立った《リニア技術をさらにブラッシュアップするため、同評価委員会より示された、①信頼性・耐久性能の検証、②コスト低減技術、③車両の空力的特性の改善技術 を柱として、走行試験及び技術開発を積極的に推進しています。これらの成果の一部は平成14年度に山梨リニア実験線に投入・評価することにしており、既に7月下旬から新型車両の走行試験を開始しています。また、別途進められている営業線に関わる調査(地形地質に関する調査、中央リニア新幹線基本スキーム検討会議、中央リニア調査)についても並行して作業が続けられています。

 さらに当社では高温超電導線材のリニアへの適用についての開発を推進しています。平成13年度からはNEDO、ISTECから高機能超電導材料技術研究開発を受託しました。Bi2223線材の産業応用に向けたコイル作製技術開発の一環として、リニア車載を想定したマグネットの研究開発を行います。13年度は、Bi2223線材を用いて伝導冷却レーストラック形積層パンケーキコイルを作製し、定格電流までの通電試験を実施しました。14年度にはこれまでに得られた知見をもとに、1コイルマグネットを作製する予定で、現在その準備を進めています。

 この開発を通して感じたことは、引張強度や耐歪性の低い高温超電導線材の取り扱いや巻線にはNbTi以上の注意を払う必要がある点です。将来の産業応用を考えると、これらの性能改善によるコイルとしての量産性の向上が上可欠と考えられます。

 リニア用高温超電導マグネットにおいて、コストダウン、信頼度向上、冷却電力低減等のメリットをNbTiマグネットとの比較で実現していくためには、長尺線材性能としてJe =40kA/cm2 (at 20K, 5T)程度が必要であり、また価格についても現状からの大幅なコストダウンが必要と考えられます。今後のBi系線材開発におけるブレークスルーに期待しています。

 荻原先生には、今までにやってきたHTS応用の取り組み方の問題点を指摘(お叱り)戴くと共に、“SCスピーカー、SC自転車”など新しい応用に対するお考え(夢)を述べてください。

A3-5(荻原): 高温超電導の応用超電導 見切り発車オーラーイの条件

 なんとかと鋏は使いようというでしょう。

 応用範囲は30K以下に限られていて、高温、特に磁界下での実用はJcが急激に低下するため困難。このJc特性の劣化は、この導体の本質的な性質を反映したものであって、線材構成、加工技術の最適化によって克朊できる問題ではないと考えられる、と、今回の紙上討論チェアマン殿に宣言されたBi(Pb)2223またはBi2212銀シース線はまさにこの「なんとか《なんでしょうね、と思っています。

 スピルバーグがスターウォーズで扱っているほどではないのでしょうが、むかしむかしを云うのにThe years pastという英語のあることを勉強しました。とたんにスーパーコムから紙上討論に引っ張り出されていることを思い出しました。

 いま、使える高温超電導導体として最も身近にあるBi(Pb)2223またはBi2212銀シース線への上記のご託宣にもかかわらず、同じ紙上討論趣旨の説明文でチェアマンは、Bi系線材の高性能化が着実に進展し、応用開発も広がってきているとして、その例として、Si単結晶引き上げ炉用大口径マグネット、試作1GHz級NMRモデルコイル、試作高電圧型1000kVAトランス、実地試験に使われている100m送電ケーブルを挙げています。ここでは上記のご託宣はどうなっているのでしょうか。高温超電導体も発見という出来事がThe years pastの彼方にかすむとこのくらいのものにはなるのです。あれから20年。ふた昔。あの頃、3年もあれば超電導磁気浮上リニア鉄道も、いや核融合でさえ実現するといった人たちはどうしているのでしょうか。3年もして姿を現したのは、いろいろな超電導未来予測図で、外国の観測にも影響されたらしく、実際外国には弱いんですよね、新世紀とか2010年とかの数字でした。2年とか5年とか、そりゃだめだ。と言ったのが未だにわたしに纏いついているのですが、人間である以上、生まれたばかりの赤ん坊の将来はあかるく見るものだ、といったことや、いっそのこと液体ヘリウムで使ったら、と提案したことは覚えてもらえていないようです。

 ところでイラストを一枚見ていただきましょうか。敬愛するヒース・ロビンソン氏提案の「いつでもぶっかけられる猫用水掛装置(わが庭に幸いあれ 中尾真理訳 筑摩書房1998刊)《の中の挿絵です。そういえばスタンバイミィやバックトゥザフューチャでも同じようなシカケがありました。Bi(Pb)2223またはBi2212銀シース線でコイルを巻く作業を見た人は、当事者は別としてきっとこれらのシカケを思い出すに違いありません。ここでは歯車一つ、滑車一つに無駄がない、つまり冗談ではないのです。どれも技術的にとことん突き詰めた研究の結果、上可欠とされたものなのです。勢い、製造コストは高くつきます。もともと線材も高価。


図1 猫用水掛装置の挿絵

 本質上の難点、線材コスト、製造コストの際立った大きさに耐えることのできる使い道だけが生き残るのです。たとえば、例に挙がっていた正当な電力応用。これには材料面のコストダウン、用途上での、たとえば電力料金のコストアップなどが必要でしょう。製造コストは生活費ですからね。それは時間ということかな。ほかには、それが許される間の、つまり今ですが、アソビ。

 液体窒素温度で、0.5テスラで1アンペアを、もちろん抵抗ゼロ、で流せるBi(Pb)2223またはBi2212銀シース線、でなくてもいい、で多少の折り曲げに耐えるものを1m千円で単位長さ最低100mくらい、市販ということになれば、世の中、随分と変わるのだけどな、と思います。これがあれば高温超電導の応用超電導は見切り発車オーラーイ。

4.Bi系線材コスト低減策と今後の見通し

Q4:最近米国のASC社Bi系線材専用新工場の建設完了が伝えられる一方、世界各社からコスト低減の見通しが発表されています(本誌Vol.11, No.3)。

 線材メーカーのみなさんには、これら世界各社の低価格化情報開示(300→50$/kAm)と、意欲的な拡販政策に対するコメントをお願い致します。難しい設問ですが、各社は前回も取上げた「DOEの価格/性能目標=10$/kAm《の達成について、どのような見通しを立てているでしょうか。最後に、Bi系線材への需要を喚起する振興施策など要望がありましたら述べてください。

A4-1(林):線材コストと言った場合には、性能、長さあたりのコスト(円/Am)が重要であるが、まずは性能の向上が必要と考えている。なぜなら超電導機器としてのコンパクトさのメリットを実現しないと超電導化すること自体の意味がなくなるからであり、いくら長さあたりのコストが安くなっても技術的なメリットが生まれないからである。また性能が2倊になることはコストが1/2になることに対応しており、現在精力的に実施しているJe向上の開発が円/Amあたりのコスト低減に果たす役割は非常に大きい。また、Bi系線材では銀をシース材に使う限り大幅なコスト低減は望めないのではないかといった議論があるが、長さあたりのコスト(円/m)は銀のコストというよりは歩留りに依存する部分が大きな割合を占めているのが実情である。歩留りについては、今後量産レベルの製造技術が確立されれば飛躍的な改善が可能であると考えている。

 海外からは意欲的な価格情報が公表されているが、価格は市場の中で需要と供給の関係で決まっていくものであり発注数量の制約等があることも考慮すべきであろう。また必要な線材コストは応用分野にもよるので一律にいくらでなければならないと議論することにも疑問が残る。ただ、Bi系線材が広く普及可能なコストとしてDOEが示しているレベルは目標にしないといけないと我々も考えている。

 また、本格的な商業化にあたっては、特許の問題が無視できない。場合によっては特許料がコストのかなりの部分を占める可能性もあろう。以前に比べて基本的な特許がいくつか権利化されつつある状況であるが、未だ権利関係は混沌としている部分も大きい。問題を生じないような措置を今から考えておくことは線材メーカーの責務であると考えている。

 今後は、試作された機器からのフィードバックを受けながら、まずはJeを初めとする超電導特性の向上を実現し、1日も早い本格実用化を目指していく所存である。

A4-2(岡田):価格を目標とするということは、シーズ指向から、ニーズ指向への研究開発に移行することを意味します。疑問点は、10~50$//kAmの数字が、ニーズとして何を意識しているのかという点です。価格は市場が決めるものであって、努力目標に到達したから市場がすぐに開けるというわけではないと思います。価格が高くても、使い勝手や、メンテナンス性に優れていれば売れるものは売れます。むしろ、「高くても売れる付加価値の高い商品を開発せよ。《が今の日本に求められていることのように感じます。

 高温超電導線はずいぶん開発が進みました。今はその応用をもっといろいろ考えるべきと思います。液晶を例にとりあげましょう。「液晶はカラーTVで実用サイズになるまで、何も使われなかったか《というとそういうわけではありません。電卓に使われた白黒液晶から見ると、隔世の感があります。高温超電導を考えるとき、今の時点で使える応用をもっと貪欲に考えて提案するべきと感じています。これは、システムメーカの責任ですが、国や公的機関は、そのような開発をもっと後押ししてほしいと思います。大画面で液晶TVがきれいに見えるようになるまで製品化しないと言っていたら、今のカラー液晶TVは実現できなかったのではないでしょうか。1mでも10mでも、技術が完成したところから、応用を意識して何らかの製品に載せてゆく努力が必要と考えます。

5.おわりに

 前回討論会から2年が経過しました。この間Bi系線材の長尺化と量産化が着実に進展し、ケーブル化技術、永久電流接続技術など要素技術の開発も進んでいることは高く評価されます。一方、長尺化が進むにつれてIc及びJcの向上が伸び悩む傾向が見受けられます。基本的な特性向上策の探究とは別に、Bi2212に対しては今一度現行加工技術を抜本的に見直して製造技術を確立すること、Bi2223に対しては地道な工程改良へ注力することが肝要と思われます。低温超電導のNbTi 、Nb3Sn線材も10~20年に亘る幾つかの段階的改良を経て、今日の高Ic及びJcに至った経緯があります。また、重要課題である線材の低価格化についても、皆さんが云うようにIc及びJcの向上とバラツキ低減が最も有効な対応策と思います。現在、Bi系線材は実用出来る唯一のHTS線材であり、応用サイド及び国サイドからも積極的に支援し、育成して行く事も重要施策と考えます。今後皆さんの頑張りにより、次回討論会(2年後)までに大きな飛躍を期待しております。