SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 2, Apr. 1999.

11.高温超伝導金属間でジョセフソン効果(c-軸方向)
_阪大産研と名大工_


 大阪大学産業科学研究所の川合研究室(川山巌、川合知二両氏)と名古屋大学工学部の早川研究室(丸山道隆、藤巻朗、早川尚夫の各氏)の共同研究グループは、BSCCO単結晶とNbを用いたジョセフソントンネル接合を作製し、c軸方向にジョセフソン電流を観測した。これは、BSCCOにs波成分が存在することを示すものである。

 高温超伝導体のクーパー対の対称性は、基本的にはdx2-y2波であると考えられている。しかし一方、YBCOにおいては、斜方性に起因するs波成分が存在し、d+s状態となっていることが最近の実験により確認され、また最近は、このような構造的な理由ではなく、高温超伝導体のより一般的な性質として、様々な副次的な対称性が存在する可能性が活発に議論されている。

 今回試料として用いられたBSCCO単結晶は変調周期構造に起因する斜方歪みがあるものの、YBCOとはCuO軸に対する歪みの方向が45度異なるため、歪みによるs波成分の誘起は起こらない。BSCCOの劈開面は原子レベルで平坦なテラスと最大1.5nm (1 unit cell)の高さのステップで構成されており、これを基板として薄膜を積層することにより、非常に平坦な界面を持つ理想的なc軸接合が作製できる。BSCCOが単純なd波であると考えると、s波超伝導体のNbとの間にはc軸方向に1次のオーダーではジョセフソン電流は流れない。しかし、今回の実験では図1に示すような典型的なジョセフソン特性がいくつかの試料で観測された。また、ゼロバイアス電流は、周期的な磁場変調を示し、観測された電流がリーク電流ではなく、ある程度の均一なジョセフソン電流であることが確認された。さらに、より広いバイアス範囲で測定したスペクトルからはNbの超伝導ギャップ構造が見られた。これは接合の電気伝導がトンネル過程によるものであることを示している。これらの結果は、このような接合において、BSCCOに構造歪み以外の要因でs波成分が誘起されることを強く示唆している。観測されたIcの大きさは4.2Kにおいて1.8-8.0 μVの範囲にあり、IcRn積は1.8-4.5 μVと非常に小さいものであった。図2はBSCCOの対称性をd+s波と仮定し、田仲-柏谷の式を用いてIcの温度依存性をフィッティングしたものである。BSCCOに誘起されたs波の超伝導ギャップと転移温度の値としてそれぞれ10.6μeV、10K程度を仮定した場合に最もよく実験結果を再現している。なお、対称性をd+isとした場合も結果にほとんど違いは見られない。川山巌氏は「これらの結果は、BSCCOにおけるs波のギャップは、d波のギャップの千分の一以下の大きさしかなく、またd波とs波の転移温度が大きく異なることを示唆している。また、誘起されたs波成分は2Δ/kBTc・10-2という異常に小さな値を持つことを意味しており、これは従来の理論では説明できない。」とコメントしている。

 このような結果に対して、高温超伝導体のトンネル理論に関して精力的に研究を行っている、名古屋大学工学研究科の田仲由喜夫助教授は「今回の結果はいくつかの可能性を示唆しているが、BSCCOではかなり厳密にd波状態が実現されているという事にも対応し、その意味でも重要な結果であると思う。2次以上のジョセフソン結合が完全に排除されていれば,s波がd波中に何等かの意味で誘起されていることになる。

1.バルクの性質としてs波成分が、そもそも混じっている可能性、2.Nbとの近接効果によってs波成分が誘起されている可能性、3.もしステップからのab面内電流が多少混じっているとすれば松本‐斯波、久保木‐Sigrist、田沼らの議論した表面近傍での自発的時間反転対称性の破れのために現れたs波成分の可能性、などがあげられる。いずれにしても興味ある実験結果である」とコメントしている。

 川合知二教授は「高温超伝導体には、d波成分のみでなくs波成分も存在することが、BSCCOでも示されれば、超伝導メカニズムの観点からとても面白い。実際に、どのようなメカニズムでs波成分が誘起されているのか明らかにすることが今後の課題である」と話している。(G3)


図1 I-V スペクトル(3.7 K)


図2 Icの温度依存性

Nb及びBSCCOのd波のTc,ΔとしてそれぞれTc(Nb)=9.2 K,Δ(Nb)=1.4 meV,Tc,d=80 K,Δd=27 meVを用いた。