SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol. 8, No. 1, Feb. 1999.

4. 走査型SQUID顕微鏡を開発
         個々のボルテックス観察に成功
_超電導工学研究所・セイコーインスツルメンツ_


 超電導工学研究所第6研究部・田辺圭一部長らとセイコーインスツルメンツ株式会社(SII)科学機器技術一部・茅根一夫氏、中山哲氏らは共同で、試料温度可変機構を有する走査型SQUID顕微鏡システムを開発し、高温超電導薄膜中にトラップされた量子化磁束の可視化(観測)に成功した。

 一般に超電導体を常温から超電導状態に冷却する際に、周囲の環境磁場などの磁束が超伝導体中にトラップされ、この磁束が超電導エレクトロニクスデバイスの特性に悪影響を与えることが知られている。これまでトラップされた磁束については低温超電導薄膜を中心にいろいろな研究がなされているが、超電導体にトラップされた磁束を容易に観測する手段がないため、デバイスなどの特性の変化からその影響を評価してきた。しかし、磁束が超電導薄膜のどの個所にトラップされ、デバイス特性にどのような影響を与えるのか、また試料の冷却条件や超電導材料の違いでトラップのされ方がどう変わるのかなどについては解明されていないのが現状であった。

 この問題を解決するためには高い空間分解能と磁場分解能をあわせをもつ磁区観察手法が必要である。高い空間分解能を持った磁区観察手法としては磁気力顕微鏡、走査型ホール素子顕微鏡、走査型SQUID顕微鏡などが存在する。その中でも走査型SQUID顕微鏡は高感度な磁気センサーである超電導量子干渉素子(SQUID)を用いており、定量性及び感度の面において群を抜いて優れている。そのため走査型SQUID顕微鏡はこのような研究に極めて有効だと考えられている。

 高温超電導材料やデバイスの研究開発を行っている超電導工学研究所と、いままで生体磁気計測や非破壊検査用のSQUIDシステムを開発してきたセイコーインスツルメンツ(株)は、一部を通商産業省工業技術院のニューサンシャイン計画のもと、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超電導応用基盤技術研究開発プロジェクト」の一環として委託を受け、共同で研究を行った結果、測定試料の温度を4〜100 Kの幅広い範囲で変化させることのできる走査型SQUID顕微鏡を開発したもの。従来、走査型SQUID顕微鏡はSQUIDを冷却する必要から測定試料の温度変化は困難であるとされていた。これはその問題点をクリアしたものであり、高温超電導体にトラップされた磁束の温度変化の評価などが可能になる。

 実際にこのシステムを用いて90K程度の臨界温度Tcを持つ高温超電導体NdBa2Cu3O7-δ薄膜のTc以下での測定が行われた。その結果広い温度領域に渡り薄膜中にトラップされた磁束が観測された。さらにトラップされた磁束の個々の大きさは磁束量子の大きさそのものであり、量子化磁束を観測できたことが確認された。これにより走査型SQUID顕微鏡の高い空間分解能に加えて、優れた磁場分解能と定量性が示されたと言えよう。

 開発の担当にあたった超電導工学研究所デバイス部門第六研究部田辺圭一部長は次のようにコメントしている。

「今回の走査型SQUID顕微鏡システムの開発により、今まで超電導エレクトロニクスデバイス特性に悪影響を及ぼしていた磁束の影響を直接的に評価できる。またこのシステムは電流計測も可能であるため、超電導薄膜中の欠陥や粒界弱結合の検査装置として用いることにより、超電導デバイスや線材の高性能化に寄与することが期待できる。さらに半導体電子回路の欠陥検査、低温用ステンレス構造材料の疲労・脆性評価や磁性材料の観測など微小領域の磁気計測手法として広範な応用が期待できる。」

(SORA)



写真1 走査型SQUID顕微鏡のシステム構成



写真2 薄膜パターン(1500×335mm)のマイスナー効果による
    磁場分布のイメージング(4.2K)