今回開発されたSQUID非破壊検査装置の外観を図1に、システム構成を図2に示す。この装置は微小領域計測用SQUID磁気センサ、SQUID駆動回路、底部の厚さが非常に薄いクライオスタット(液体ヘリウム容器)、ステッピング駆動式の非磁性X-Yステージおよび制御・解析用コンピュータよりなっている。
この装置の特徴を以下に示そう。
微小領域計測用SQUID磁気センサはNb薄膜により積層されたSQUID素子と、同一基板上に作製された微分検出型のピックアップコイルからなり、SQUID素子は環境磁気雑音を除去するため円形ダブルワッシャータイプである。またピックアップコイルに直接フィードバック電流をかえす直接帰還方式を採用したことにより、ピックアップコイルに流れる電流が常に零となり、計測磁場への乱れが抑えられている。SQUID駆動回路は非変調型FLL(Flux Locked Loop)回路を採用し、直流から数十kHzまでの広帯域計測が可能となっている。また、クライオスタットは真空層とそれを挟む内外のFRPの厚さを薄くすることで、底部の厚さを 2 mmと従来の1/10以下が実現されている。その結果、センサから試料までの距離はセンサの実装のために必要な 0.5 mmと併せても2.5 mmと非常に小さくなり、空間分解能の向上が図られている。
この装置を使って非破壊計測につながる基礎的な実験が進められている。その例を以下に示す。
オーステナイト系ステンレス鋼SUS304を用い、弾性変形領域内の荷重(降伏点の約80%)の引っ張り試験を行った後に測定。引っ張りによる加工誘起マルテンサイト変態に伴うと考えられる磁場分布を観測している。この結果は金属材料の疲労・劣化の診断につながるものと期待される。
渦電流を用いたAlの円孔欠陥の検出を行ない、表面に露出した欠陥であればφ0.3 mmの円孔欠陥まで検出可能。また、表面から2 mmの深さにある欠陥に対しては、φ1.0 mmの欠陥まで検出可能であることが判っている。これからは、励起コイルの形状や励起周波数の最適化により、より深い場所にある、より小さい欠陥の検出を目指している。
超伝導にたずさわるものとして、SQUIDの生体磁気計測以外への新たな展開として、この装置に期待するところは大きい。Hi-Tc SQUIDも含め非破壊計測の実用化に向け、今後の関係者の一層の活躍を期待したい。
(ya-ya)
図2 システム構成