(1)LANLグループの動向
ロスアラモス国立研究所(LANL)は、いわゆるIBAD法(ion beam assisted deposition)によるYBCO厚膜テープ製造研究を1993年に開始し、現在共同研究・開発契約(CRADAS)に基き、YBCO厚膜テープ商用化の可能性を検証する為、3M-Southwire及びASC(American Superconductor Corp.)との共同プロジェクトを推進中である。
LANLは最近、1m長、1ミクロン厚のYBCO厚膜テープを製造し、1m全長にわたって29 A以上のIcを確認している。IBADバッファー層及びYBCO厚膜形成の為連続プロセスを採用した。本1 m長テープは、この製造法が少なくとも原理的には任意の長さに拡張できることを示していると云う。現在直面している課題は、まだ遅い製造速度の向上と品質管理の向上である。現在、1対の1 m長IBAD工程には30時間かかっている(装置は2本のテープを同時に製造できる機構になっている)。YBCO膜形成速度は、約1 cm/minである。
薄膜形成中の品質管理は最重要課題であり、Foltyn博士は次のように語っている。" ウェーファ上の欠陥チップがウェーファ全体を破壊することがない半導体2乗に比し、超伝導テープの場合には、テープ全体のIcは一番悪い部分で抑えられる。Icは、テープが長くなるに従って低下する。それ故、薄膜形成工程を慎重に制御することが極めて重要である。しかし、本製造法により原理的には任意の長さのテープを製造できるので、この技術をスケール・アップできると楽観している。"
LANLは、洗練された前洗浄工程の採用と他の研究所内調達設備及び破壊のより少ない分析法の開発によって、バッファー層とYBCOの品質を改良した。例えばテープ中の欠陥部分の位置を特定するため、1 mの長さに沿って沢山の個所に於るIcを分析できる新しい方法を開発した。電圧タップを半田付けする方法の代りに、100個所に圧力接触型金属プローブを設置してIcを個所に測定した。
新しい実験的な厚膜テープ設計(LANL)には、スタンフォード大の研究に基いてMgOをバッファー層とするテープが含まれている。MgOは、YSZの代りに選択された。というのは、バッファー層形成速度がYSZの約100倍の能力を有するからである。MgO層の最適膜厚は、約100オングストロームである。これは、従来のX線回折法による分析には薄すぎるので、正確な膜厚を決めるのに、RHEED測定機器を使用する予定である。
Foltyn博士は、"YSZについては従来沢山の研究が行われて来たが、MgOは比較的に新しい材料なので、MgO層上に形成したYBCO層の性能については、まだ最高水準を達成していない。しかし、YSZがMgOほど速く形成することは考えられない。我々は、IBADMgO層上に形成したYBCO層の性能が、かってYSZで経験したごとく、時を追うごとに改善していくと予想している"と語った。さらに、"RABiTS法に比べて、IBAD法の有利性の一つは、金属基板が配向組織になっている必要はなく、基板材料として多くの選択余地があることである"とコメントした。
(2)ORNLグループの動向
オークリッジ国立研究所(ORNL)は、ここ数年間で特許取得済みのRABiTS法(rolling assisted biaxially-textured substrates)によるYBCO厚膜テープ製造研究において大きく前進した。およそ1年前、ORNLは77 K、自己磁場中で300万A/cm2にも昇ぼるJcを有する巾3mm、長さ1〜2 cm厚膜テープの製造能力を実証した。他の結果の中には、ORNLが製造した基板上にMOCVD法により高いJcを有するYBCO層を形成したMSI(Midwest Superconductivity Inc.)の成功的努力が含まれている。ORNLとMSIの共同的努力により、短尺サンプルで640,000 A/cm2のJc値を達成した。
最近、ORNLは電子ビーム蒸着法によりRABiTS基板上に高JcのYBCO厚膜を成長させる能力を実証した。BaF2アプローチと呼ばれる製造法は、新規な方法であり、ORNLのRABiTS法やLANLおよび世界の他研究所で開発中のIBAD法と強調できるだろう。BaF2アプローチでは、YBCOの成分元素は室温で蒸着され、Ba成分はBaF2の形で存在する。プリカーサは、蒸着中ではなく後刻熱処理炉内で反応させる。その為、蒸着プロセス雰囲気制御の複雑さとコストが減少する。ORNLによれば、本製造工程は、プリカーサを蒸着する基板がバッチ処理で製造できるので、高度のスチール・アップが可能と云う。
ORNLは、電子ビームと共にBaF2アプローチを用いて、900,000 A/cm2のJcを持つサンプルの製造に成功した。ORNLのB.Hawsey計画部長は、"この方法は高価ではなく、拡張可能な製造法に導く鍵となろう。何故なら、電子ビーム法は良く開発された方法であり、その為に他産業界において既に比較的安価な設備が存在しているからである。電子ビームの工業的使用者である3M社は、厚膜テープを開発する目的で、ORNL、LANL及びSouthwireと研究開発契約(CRADA)を結んでいる。電子ビームの代替案の中には、パルス・レーザ蒸着法(PLD)があるが、レーザ装置が高価でありかつ製造速度が遅い為容易に拡張できそうにない。
しかしながら、BaF2アプローチにも、生成した超伝導体たバッファー層間の反応が増大するといった問題点がある。D.Christen博士は、"確かに、本アプローチには、YBCO層とバッファー層間の化学反応増加の傾向がある。現在の課題は、本プロセスに適合するバッファー層構成を如何に見付けるかである"。現在、ORNLは、YSZ層を2枚のCeO2層でサンドウィッチしたバッファー層を使用しているが、この構成をもっと単純化したいと思っており、他の層と組合せでMgO層の採用を考えている(MgOだけでは本プロセスに適合しないため)。
最近、ORNLは従来より長いHTSを塗付したRABiTSの製造に成功し、石英ランプを用いて本基板の加熱を開始した。この非接触加熱方式は重要なステップである。それによって、最初塗付した側面に害を与えることなく両側面塗付が可能となるからである。本製造法によって、厚膜テープのIc値は、同じ基板を用いて2倍にできるだろう。今迄のところ、この新しいアプローチにより、250,000 A/cm2のJcを持つ5 cm長のテープを製造できた。
ORNLは、パートナーとの共同的努力により、間もなく厚膜テープを前商用段階に持って来られると楽観的に考えている、という。
(YF)