無機材研の泉富士夫氏らは最近、4次元超空間群を用いるアプローチにより(Ca,Sr)2Cu2O3の複雑な変調構造をリートベルト法で解析することに成功した。
粉末中性子回折データはILLのD2Bにより室温で測定した。構造パラメーターは粉末X線回折データも併用し、PREMOSで精密化した。電子回折パターンで消滅則を調べ、予備的なリートベルト解析を行った後、もっとも可能性の高い超空間群としてF222(11g):F222(11g)を選んだ。
図1にa軸とb軸に沿った結晶構造の投影を示す。二つのサブシステムの単位胞が最下部にプロットしてある。大きな白丸と影つきの丸はそれぞれサブシステム1 と2に属する酸素原子を表わす。小さい黒丸はCu原子である。この図におけるもっとも顕著な構造的特徴は、はしご中のCu1原子の一部に隣接CuO2鎖のO3原子が付加的に結合し、局所的にCuO5ピラミッドを形成していることだ。すなわちO3はCu2ばかりでなく、いわゆる頂点酸素としてCu1にも配位するのである。図1では0.285nmより短いCu1−O3結合を点線で表した。
5配位のCu1原子は4配位のCu1原子より短いCu1−O1/O2距離をもつ。これらの事実は5配位のCu1原子にホールが注入されていることを強く示唆している。注目に値するのは、5配位のCu1原子二つがペア(1と1'、3と3'、5と5'、…)となって並ぶことである。これらのCu1原子にドープされたホールの対が高圧・低温の条件下で非局在化して超伝導になると解釈することもでき、はしご型化合物における超伝導の機構と関連して興味深い。
超空間における4次元座標t'の関数としてCu1−O原子間距離をプロットしたのが図2である。はしご内のCu1−O1、Cu1−O2結合の長さはそれぞれ0.194 nm、0.187nmを平均値として多少、変動している。一方、ユニット間を結ぶCu1−O3距離はきわめて激しく変化する。
Srに富む同形酸化物と本化合物の構造解析結果を比較することにより、CaによるSrの置換に伴いCu2O3はしご(超伝導の担い手)とCuO2鎖(電荷浴)の相互作用が増し、電荷移動を通じてホールが鎖からはしごへ移ることが明らかになった。圧力の上昇や温度の低下もCu2O3はしご−CuO2鎖間の相互作用を増加させるはずである。この研究により室温における構造は見事に解明されたが、今後は実際に超伝導状態となる温度・圧力に近い条件下での結晶構造を詳しく調べる必要がある。泉富士夫氏によれば、低温での中性子回折データはすでにD2Bで測定ずみであり、現在PREMOSによる解析を進めているそうである。
なお、本研究のプレプリント はPDFファイルとしてWWW上で公開されている。URLはhttp://www.niriim.go.jp/~izumi/である。
(YZARC Networker)